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僕の混乱に答えるようにおじさんはそう言った。
「いやー、偶然隠し条件を見つけちゃってねー。まだ誰にも倒されてなかったから、このまま倒さず捕まるのは心残りだったんだよね」
なんとなく画面の向かうの金髪エルフの中の人がニヤついているような気がした。
何事も初めてというのはネトゲの世界では絶対的な価値になる。
例えば、初めて実装されたボスを初めて倒した人とかそうだ。サーバーを跨いで話題になり、運が良ければ運営にも声が掛かる。
だけど、当時は唯一のボスだったそのモンスターも数年の度重なるアップデートで新規ユーザーにはただの通過点に変わる。新規ユーザーはその凄さをよくわからないけど、周りの空気でその人を持ち上げたりもする。
初めてというのはモンスターの価値が変動しても、根拠なき自己肯定感の源になり続けられる。
「俺はね、これから死ぬ人間が若者に何かを託すみたいなシーンを再現したいんだよ」
ゲームはなりたい自分になれる場所という意見には頷けない。
ただ、課金だったり周りが乗った演技だったりで魔法がかかってなれるときが一瞬だけあるのは認める。
「おじさんがこれから死ぬのは社会的にだし、そういうシーンは初期からの積み重ねで映えるものだと思うんだけど」
ダンジョンの揺れが激しくなってくる。ボスの登場は毎度こんな派手な演出をされるのか、とぼんやり思った。
「それに、僕はそんなのを抜きにして普通に楽しんでいる方が凄いと思うけど?」
壁を破って巨大な黒い竜が現れる。
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