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「仮面さんがいてると聞いたけど……。ほんまや! ほんまに仮面さんや! 夢やないやろか?」 そう言って、りんは涙ながらに仮面さんの手に触れる。仮面さん、いや、与一郎も目を潤ませながら、りんを見つめた。 「私もそない思いましたが……。ほんまらしおすわ。お嬢さん、おおきに。お嬢さんのおかげで、私もほんまの家族に会えたんどっせ」 与一郎の言葉に、りんも首をかしげたが、乳母の話を聞いて目を見張った。そうして、「よかった」と嬉しそうに微笑むのだった。 その日以来、与一郎と名乗るようになった仮面さんは、またいろいろなお茶をもって、善兵衛の店に出入りするようになった。りんだけでなく、善兵衛、なみをはじめとして、みんなが与一郎のお茶を飲んで息災になった。その噂を聞きつけた京の人たちが、与一郎のお茶を買いに来るようになった。気鬱に悩んでいる人の相談も受けるようになったのだった。 やがて、りんがすっかり元気になった頃、店のものたちと皆で、花見に行くことになった。皆、りんが幼少のころから見知った顔だ。りんの回復を喜ぶ姿に、りんも心が温かくなった。 「なあ、おとうはん。これからは、もっといろんな話をしとおすねん」 「どうしたんや、急に」 「お店のことも、もっと知りたい。いつか嫁に行くいうても、その前に、もっと誰かのお役に立てる人になりたいんどっせ。甘えるだけとちごて」 善兵衛は、娘が思い悩み、気鬱になったことを思い出した。りんにとって気鬱は一大事だったが、乗り越えた今、娘はなんと成長したことだろうと思うと胸がいっぱいになった。 「お義母はん、英治郎のお守り、うちもしますえ。気安うに頼んでおくれやす」 そう言って微笑むと、おなみもたもとで涙を拭った。ずっと、りんの病は自分のせいだと気に病んでいたのだ。 そんな家族の姿を、後ろから乳母と与一郎が見守っていた。与一郎は、もう仮面を使わなかった。何を言われても、乳母、そして何より自分や自分のお茶を頼りにしてくれる人が心の支えになってくれるのだ。 春爛漫のなか。桜に、あたたかな春の光が降り注いでいる。               完
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