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「お乳母はん、どうしたんや! 真っ青やないか!」
「……旦那さん、実は、うちには兄がいまして……。その兄は、生まれてすぐに里子に出さえたんどす。その兄の目が……、青いんどす!」
「お乳母さんの兄さんが!」
「へえ、兄が生きていたら、仮面さんくらいの年になってますのや……」
乳母の両親は兄を里子に出したことを悔いており、乳母に兄を探し出してほしいと言い残して亡くなったこと、そのために里帰りしていたことを、乳母は涙ながらに善兵衛に話した。
「旦那さん、仮面さんは、心の綺麗なええ人でおます」
「そうやな、目が青いさかい言うて、別け隔てして、つろうあたったのを私も悔いてるんや」
翌日、仮面さんは善兵衛の部屋に呼び出された。乳母も善兵衛の部屋に来ていた。目が青いことで、出入り禁止になってので、いったい何事かとも思ったが、仮面さんはいつものように穏やかだった。
「仮面さんは、丹波で育たはったと聞いたが……」
「へぇ、そうどすけど……」
「里親さんのお名前は?」
「与兵衛とさきと申しますが、それが何か……」
「与兵衛とさき」と聞いた、乳母は目に涙を浮かべて、仮面さんを凝視した。そして、我慢しきれなくなって叫んだ。
「兄さん! 与一郎兄さん!」
「なんで私のほんまの名を知ってはるのどす! それに兄さんって……」
「うちは妹のたきでおます。兄さんをずっと探してました」
「妹! 私に妹がいましたんか! ずっと天涯孤独やと思ってました……」
仮面さんの目にも涙が浮かんだ。善兵衛も目に涙を浮かべて、仮面さんと乳母を見守っていた。その時、仮面さんが来ていると聞きつけたりんが、善兵衛の部屋に駆け込んできた。
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