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りんが十七歳になったある日、独り身を通して来た父が後添えを迎えたのだ。後添え、つまり新しい母の名は、なみ。
―べつだん、べっぴんさんやないなー
―おとうはんは、役者さんみたいやと言われてはるのに。なんで、おなみさんを後添えにしゃはったんやろ?―
母・せんは器量自慢だったが、体が弱く、りんを生んだあとは病みがちだった。日焼けして達者そうなおなみとは比べようもない。
さらに、りんを驚かせたのは、その年齢だった。おなみは、まだ二十二。りんとは五歳しか年が違わない。父・善兵衛は四十二だ。
なみが来るまでは、りんは善兵衛と二人で食事をしていた。
「今日は女髪結いに来てもろて、流行りの髪に結い上げてもらいましたんえ、どうどす?」
「新しい友禅のべべがほしおすねんけど……」
善兵衛は娘の他愛もない話を、面白そうに聞くのだ。目に入れても痛くない、と言うように。
ところが、なみが来てからは、食事は父、なみ、りんの三人ですることになった。なみは大原の豪農の娘で、行儀見習いの上女中として大店に奉公していた。そのせいか、商売のことでも善兵衛の話相手にもなれるのだ。父は、なみとばかり話すようになってしまった。
これではいけないと思い、りんもなみと仲良くしようとした。
「おかあはん、うち、今日は……」
だが、そういう合間から、父が口を出すのだ。
「おなみ、今日は越後屋さんが来はってな!」
後に残されるのは、話についていけない、りん一人である。
りんは、いつの間にか自室に引きこもるようになった。食事も心配した乳母がりんの部屋まで運ぶようになった。口数も少なくなり、誰とも話さなくなったのだった。
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