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8
その日は、乳母が実家にやむない用事があると言って、里帰りをしていた。乳母の代わりに上女中がりんに付き添っていたが、上女中は、なみに呼ばれて、席を外したのだった。
「仮面さんは、なんで仮面をしてはるの?」
「……そ、それは……」
「堪忍どっせ。立ち入ったこと聞いてしもて……」
仮面さんはりんをしばらく見つめていたが、うつむいて、ゆっくりと仮面を外したのだった。仮面を外すと、仮面さんの色白の肌がいっそう白く見えた。仮面さんが顔を上げると、りんは、息を呑んだ。
―仮面さんの目が青い!―
「堪忍どっせ。気色悪いでっしゃろ」
「何を言うてはりますのや。なんて澄んだ目。晴れた日の空の色みたいどっせ」
仮面さんはりんの表情を見て、しばらく黙っていた。けれど、思い切ったように、ゆっくりと自分の身の上を語りだしたのだった。
「私は目が青いさかい。生みの親に捨てられたんどす。手前がいると親兄弟に迷惑がかかるさかい」
「そんなむごいこと……」
「手前を育ててくれた年寄り夫婦はええ人どした」
「そうやったんどすか……」
「そやけど、近所の人に化け物やと言うて嫌われて、子どもらには、きつういじめられましてな……」
仮面さんは色白の顔をゆがめて、青い目から涙をこぼした。田舎でいじめ抜かれて、それを見かねた年寄り夫婦が、つてをたどって、京で働くことを勧めたのだと言う。
「京に出て来る前に、顔に傷があるさかいというて、仮面をつけ始めたんどっせ」
「そんなつらいことがおしたんやな……」
「親兄弟にも迷惑かけて、育ててくれた年寄りにも苦労させて、私なんか生まれてきいひんかったほうが良かったんどす……」
りんは仮面さんの生い立ちを聞いて、胸がつぶれそうだった。仮面さんが気の毒でたまらなかった。
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