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その日は、乳母が実家にやむない用事があると言って、里帰りをしていた。乳母の代わりに上女中がりんに付き添っていたが、上女中は、なみに呼ばれて、席を外したのだった。 「仮面さんは、なんで仮面をしてはるの?」 「……そ、それは……」 「堪忍どっせ。立ち入ったこと聞いてしもて……」 仮面さんはりんをしばらく見つめていたが、うつむいて、ゆっくりと仮面を外したのだった。仮面を外すと、仮面さんの色白の肌がいっそう白く見えた。仮面さんが顔を上げると、りんは、息を呑んだ。 ―仮面さんの目が青い!― 「堪忍どっせ。気色悪いでっしゃろ」 「何を言うてはりますのや。なんて澄んだ目。晴れた日の空の色みたいどっせ」 仮面さんはりんの表情を見て、しばらく黙っていた。けれど、思い切ったように、ゆっくりと自分の身の上を語りだしたのだった。 「私は目が青いさかい。生みの親に捨てられたんどす。手前がいると親兄弟に迷惑がかかるさかい」 「そんなむごいこと……」 「手前を育ててくれた年寄り夫婦はええ人どした」 「そうやったんどすか……」 「そやけど、近所の人に化け物やと言うて嫌われて、子どもらには、きつういじめられましてな……」 仮面さんは色白の顔をゆがめて、青い目から涙をこぼした。田舎でいじめ抜かれて、それを見かねた年寄り夫婦が、つてをたどって、京で働くことを勧めたのだと言う。 「京に出て来る前に、顔に傷があるさかいというて、仮面をつけ始めたんどっせ」 「そんなつらいことがおしたんやな……」 「親兄弟にも迷惑かけて、育ててくれた年寄りにも苦労させて、私なんか生まれてきいひんかったほうが良かったんどす……」 りんは仮面さんの生い立ちを聞いて、胸がつぶれそうだった。仮面さんが気の毒でたまらなかった。
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