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朝顔の竿が邪魔になって、非常に視界が狭められている。 それでも声の主を探した。 「わあっ!」 電信柱が生み出す細い影の中に生まれて1ヶ月くらいの子猫が「ミャアー」と鳴いていた。 クリッとした目が凛香を見上げていた。 「どうしたの?猫ちゃん?こんなところで。お母さんとはぐれちゃったの?」 凛香は傍に植木鉢を置くと、子猫の前にしゃがみ込んだ。 寒いはずはないのに、身体が小刻みに震えていた。 手を伸ばして、三毛猫の頭を撫でてやると気持ちよさそうに首を傾げた。 凛香はあまりの可愛らしさに微笑んだ。 子猫はどんな子猫であろうと人間の赤ん坊と同じく無条件に可愛い。 「いい子ですねー。首輪をしてないところをみると野良猫なのかな?ねー、猫ちゃん?」 ゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえた。 小学生の凛香ですら手のひらに乗ってしまうほど小さな猫だった。 周りを見ても親猫や兄弟猫たちは見当たらなかった。 住宅地とはいえ、こんな人間の多い場所にひとり(一匹)でどうやってやってきたのだろうと疑問に思ったが、連れて帰ろうという選択肢は思いつかなかった。 荷物でいっぱいだったからだ。 ひとしきり子猫を撫でて、満足したのか凛香は植木鉢に手を掛けて立ち上がった。 「こんなところにいると車に轢かれちゃうから、早くおうちに帰るんですよ」 「ミャー」 凛香が言い終わるか言い終わらないうちに、子猫が返事をするように戦慄いた。 一瞬の爆発のように、周りは眩い光に包まれた。 「え?」
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