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凛香の目には恐ろしいほど真っ白な光源しか映らなかった。
「え?」
あまりの眩しさに目を固く閉じた。
訳も分からず、呼吸は止まり、心臓はドクンと大きな音を立てて脈打った。
しばらく動けず、耳をすませても子猫の鳴き声も聞こえなかった。
あれだけ頬に叩きつけられていた熱風がなくなり、気のせいか緑の香りのする涼風が吹き抜けていった。
汗ばんだ体からどんどん体温を奪っている薫風がどこからともなく吹き抜けて行くのを感じた。建物から漏れ出るような冷房の風ではない。
思わず深呼吸したくなるマイナスイオンを含んでいる自然の冷風だ。
あれだけ眩い光の見てしまったのだから、瞳が外界を認識するには時間がかかるだろうと思いながらも目を開けずにはいられなかった。
おそるおそる開けてみると風景が一変していた。
灼熱の住宅地はどこへ行ってしまったのか、跡形もなくなっていた。
見渡す限り広大な草原の中に凛香は立っていた。
吹き渡る風が緑の絨毯の上を波のように揺らしていく。
暖かい陽光の中で緑が輝いていて、草の香りが鼻をくすぐった。
人工的な建物など一切ない豊かな自然の中に凛香は立っていた。
ここにきた経緯に注意を払わなければ、こんなに気持ちの良い場所は初めてだった。
世の中の雑音から解放されたような安堵感にも似た感情が湧き上がってくる。
しかし、不思議な力を持つ神秘蔵アヌビスの面々を知っている凛香にとってこの場所は違和感しかなかった。
彼女もまた魔術師を目指している卵だ。
物理的に不可能な現象が起これば、自身の第六感のアンテナが起動するはずだ。
持っていた植木鉢を自分の身にぎゅっと引き寄せて不安げな表情になった。
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