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「はぁぁあぁぁ〜、暑い!なんでこんな暑い中をこんなものを運んでいるんだw私は(怒)」 4本のリング支柱が可愛らしい花柄になったものが鬼の角のように生えている。 凛香の歩く動きに合わせて小刻みに上下運動を繰り返していた。直径20cm、深さ25cmの色だけは涼しげな青い取手がついていて運びやすそうな四角い植木鉢を両手で持ちながら、蜃気楼が揺らめくコンクリートの歩道を家に向かって歩いていた。 湿度75%で炎天下の外気温は、小さな凛香の体から容赦なく水分を汗として蒸発させていた。 おまけに背中に背負ったランドセルの中身が重く両肩にのしかかる。 洋服と鞄の接点は、汗まみれでベタベタと張り付いて、とても不快だ。 移動中の電車の中ならば、弱冷房車とはいえ涼しいのだが、駅から家まではどうしても歩かなければならない。 毎年毎年、季節外れの猛暑。その上、新型感染症の流行でマスクを着けている。この三重苦の状態は小学生の凛香にとっては耐え難いものであった。 「なんでぇーーー小学4年生にもなってぇーーー小学1年生みたいにぃーーー朝顔の世話なんかしなきゃならないのぉーーーよーーー」 叫んでいるとマスクに熱気がこもってしまうため、片手で植木鉢を抑えながら思わず片側の耳からゴムを外した。 宙ぶらりんになっているマスクが熱風に揺れた。 何度か深呼吸をして、身体中に酸素を行き渡らせた。 熱風でも頬に風が当たるのは心地よかった。
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