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「うちの担任はぁーーー頭おかしいんじゃないのーーー!ったく、何が困っている人の役立つように朝顔の種を収穫しようだーーー!」
額から流れ落ちた汗が目に入りそうだったので、植木鉢を足元に置いて、手で拭った。
拭った手で日影をつくり、空に目を向けた。
夏の太陽と近頃にしては珍しくきれいに晴れ上がった青空だった。
「明日から、楽しい楽しい夏休みだっていうのに…この苦行はなんなのかしら?」
凛香は小さなため息をついた。
たった布一枚とはいえ、顔にマスクが張り付いているだけで感覚の大部分を遮断されている気持ちがしてくる。
人間の感覚。
顔の表情。口の動き。空気の動き。匂い。触れ合い。
あるのが当たり前だと思っていた世界が、遠くに行ってしまって数年が経過しようとしている。
なくなってしまって、その重要さに気づくのが人間の愚かさなんだろうか?
「こんなことなら、パパに駅まで迎えにきてもらうんだった。夕べ、喧嘩しなきゃよかった…かも」
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