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適当に空いている席に座ったのがいけなかった。正面にどこか見覚えのある機嫌悪そうなギャル風女子高生——便宜上ピリピリギャルとでも呼ぼう——が座っており、俺を睨んでいるように見えるが、きっと視力が悪いからだろう。だから、ハンドサインとか送られても困るというか。
『悪いことの次には良いことがある』なんて甘言には既にうんざりしていた俺は、ピリピリギャルの視線を避けるようにスマホを開き、ソシャゲのイベントを消化することにした。
日課となりつつある周回を終える頃最寄り駅へと着いた。改札を抜け駅前に併設された自販機を見るがレパートリーに乏しく、あたたかいの欄に至っては、だし、チゲ、お汁粉のマイナー御三家が鎮座している始末。
勘に従いコンポタを二本買うと不意に気配を感じ一言。
「俺の背後に立つな」
刹那、脛に響く鈍痛。オレでなきゃ見逃しちゃうねと言うべきだったのかなんて考える余裕は疾うに失せ、錻力細工さながらに振り返ると神崎の妹。それも客観的美少女がいた。亜麻色の髪が靡くたびにサボンの匂いが鼻をくすぐるが、そんなことは些細なこと。
問題はアハ体験かってくらいに徐々に失われていく瞳の温度というか。端的に言って微笑んでるのに目が笑っていないのは流石に怖すぎる。
「鎮まりたまえ!」
金曜ロードショーで見たばかりだったからか、そんな言葉が口を衝く。我ながらチョイスが酷い。
「…………」
沈黙は金とは言うが流石に今回のは居心地が悪い。賄賂代わりにコンポタを渡してずらかりたいところだが、コートの袖をひしと掴まれた以上それも出来ない。
「……なんで電車で無視したのかは後で聞くとして、ありがたくこれは頂きます」
「お、おう」
俺が無視したのはピリピリギャルであって断じて神崎茜では無いはずなんだが……まぁいいか。
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