灰の空に哀が差す

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 こいつと俺の家は近所というか目と鼻の先というか。そんな位置関係だからか、自然と時間の合う曜日は俺が送るようになった。 「あ、そうだ。悪い……寄り道してってもいいか?」 「別に大丈夫ですけど、スーパーですか?」 「……ああ。なんなら三百円までならおやつを買ってやろう」 「荷物も持つのでもう一声!」  そうたわいもない会話をしつつ銀杏並木を歩く。一月末ともなれば既にそれは落葉し、より一層冬の寒さを際立たせている。大学生という事もあり、俺は自由服だからいくらかマシな部類なのだろう、彼女を見ると冬服とはいえ流石にスカートは些か寒そうに見えた。  ふと、自身の高校時代を振り返ってみても、学ランの下にはいつもジャージを着ていた。ともすれば、女子のファッションへの情熱に脱帽せざるを得ないがそれはそれ。 「……ほれ」  彼女にカイロを押し付ける。見ていて寒いからだとか、風邪をひかれたらシスコンの気がある友人に俺がシバかれかねないからとか色々理由はあるが、一番の理由は気恥ずかしくて言葉にできそうにない。 「あ、ありがとうございます」  華奢な両手でカイロを包むのを横目に、俺は「おう」と一言返した。  銀杏並木を抜け、河口に架けられた橋を渡る直前どちらともなく足を止めた。 「……懐かしいな」 「……そう、ですね」  至って普通の幼稚園がそこにあった。なんて事ない建物のはずだが、中高と大人へと近づいていく過程で、どこかセンチメンタルな気分になるだろうと避けていた。実際、その通りだった。  ここに来るたび考えてしまう。幼稚園の頃の自分に戻りたい、否、あの頃の自分のまま捻くれない自分になりたいと。
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