12.& エピローグ

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12.& エピローグ

12.  英斗の言葉に紅葉は一瞬自分の息が止まったのを感じた。 《自分だけ血が繋がっていない?》  英斗が何を言っているのか分からなかった。  紅葉は頭が回らなくなっていた。英斗の言葉が理解できない・・・。そこへ、英斗が更に言葉を続ける。 「まだ紅葉が生まれて間もない時に、俺の両親が引き取った。いきさつは詳しくは聞いていない。親は赤ん坊を突然連れてきて、妹になるんだと言われた。その時は引き取ったことを知らなかったが、中学生くらいになって俺の気持ちを察した親が真実を話してくれたんだ。それを聞いたとき、俺はどこか安堵感があったよ。紅葉を好きでいてもいいんだということに安心した・・・。けど、紅葉がこのことを知ったらショックが大きいと思って、時期が来るまでは話さないでおこうことになったんだ。でも、父さんも母さんもとても紅葉のことは大事にしているのは分かるだろう?実の娘じゃなくても本当の娘のように可愛がってる。俺さ、親に俺の気持ちを悟られて最初は怒られるかと思った。真実を聞いて、その後で親はこう言ったんだ・・・」  英斗は一呼吸置くように息を吐く。そして、紅葉を見据えて力強く言った。 『全力で紅葉を守りなさい』 「・・・それが、親の言葉だった。怒られるどころか賛成してくれたよ。そして、『守れ』って言われて、その時に俺の気持ちが揺ぎ無い本物になった」  英斗が真剣な瞳で紅葉を見つめる。その眼差しを逸らすことができない。いや、逸らしちゃいけない・・・そんな感覚になる。英斗が更に言葉をかける。 「紅葉、俺はずっと紅葉のことが好きだったよ・・・。だから、本当の恋人同士にならないか?」  英斗の言葉に紅葉は涙を流した。  自分に向けてくれる強い愛情。  守ってくれていたという英斗の愛情表現。  自分のことをこんなに思ってくれていたから、あんなに大事にしてくれたり、辛い時は慰めてくれていたんだとその時になってようやっと気づく・・・。  それと同時に、心の中に温かなものが流れ込んでくる。それは、雪が溶けて春が芽吹き始めるような優しく温かい季節の変わり目のような気持ちだった。 「返事は?」  何も答えない紅葉に、英斗が不安そうに聞く。紅葉は涙を流しながら、英斗の胸に抱き付いた。 「大好き・・・。私もお兄ちゃんが大好き・・・です・・・」  その言葉に英斗が紅葉を強く抱き締める。  そっと腕を緩め、紅葉と英斗の顔が自然と近づく・・・。  そして・・・・・・、  唇が重なった・・・。  英斗が囁くように言葉を紡ぐ。 「紅葉、これからも俺がずっと守ってやる・・・」  ~エピローグ~  両親に英斗と恋人同士になったことを親に伝えたら、とても喜んでくれた。新は、鈴乃と付き合うことになって、姉御肌の鈴乃がいろいろリードしているらしい。  ある晴れた日曜日。  紅葉は千秋とカフェに来ていた。英斗と恋人同士になったことを伝えると、最初は「兄妹で?」と、疑問に思われたが真実を話すと納得してくれた。 「はぁ~、まさかまさかの展開ね。でも、そう考えるとあのお兄さんの行動は全て合点がいくわ。まあ、良かったじゃない。お兄さんなら紅葉を大切にするでしょうし、全力で守るでしょうね。あっ!でも、デートばかりして私をないがしろにしないでねー」  千秋が半分茶化すように言う。 「大丈夫だよ!!だって、千秋ちゃんは大切な友達だもん!!」  両手をパタパタ振りながら紅葉が言う。その姿が可愛らしくて千秋が爆弾発言をする。 「私が男だったら紅葉を奪いたいくらいだわ~」  どこか、怖いともとれる笑みを浮かべながら千秋がとんでもないことを言うが、紅葉はその発言にある意味とんでもない発言で返した。 「千秋ちゃん、かっこいいもんね!千秋ちゃんが男の子だったら千秋ちゃんが好きになっていたかも」 と、紅葉が言った時だった。 「・・・ほう、俺では不満か?」  突然聞こえた声に二人は顔を見合わせて同時に声を上げた。 「「・・・え?!・・・」」  二人が声はした方に顔を向けると、そこには英斗が立っていた。  なぜ、英斗がこのカフェにいるのか・・・。  時は一時間遡る・・・。  紅葉と千秋がこのカフェに来る少し前に英斗は鈴乃とこのカフェに訪れていた。この前の出来事で鈴乃がお礼をしたいと言ってきたのでお茶をすることになったのだ。英斗は元々は自分の提案だから別にいいと断ったのだが、鈴乃が「何もお礼しないままでは女が廃るわ」と言って聞き入れてくれなかったので、こうしてお茶を奢ってもらうことになったのだった。 「・・・で、妹ちゃんとは恋人同士になれたの?」 「あぁ」  鈴乃の言葉に英斗は端的に返事をする。  実は鈴乃は紅葉と英斗の血が繋がっていないことを大学時代に英斗本人から聞いていた。そして、紅葉のことをずっと好きだということも聞いていたのだった。 「良かったじゃない。長年の想いが実って・・・。まあ、お幸せしてくださいな」 「そういう鈴乃もあんなへなちょこのどこがいいか分からんが、想いが実ってよかったな」 「ちょっと、へなちょこは余分よ。彼は純粋なだけ」 「俺には頼りない男にしか見えないがな」 「・・・えらい新くんのこと嫌っているのね。まあ、妹ちゃんを傷つけたから許せないのは分かるけど・・・。英斗って、妹ちゃんが絡むと大人気ないのね」 「うるさい・・・」  鈴乃の言葉に矢が刺さる。紅葉の事となるとどこか冷静さを失ってしまう。それは自覚していたことだった。紅葉と恋人同士になったとはいえ、今はまだどこかに不安がある。そこに、鈴乃が更に言葉を言う。 「妹ちゃんの友達で、あのかっこいい系の女の子いるじゃない?」 「千秋ちゃんか・・・」 「妹ちゃんの雰囲気的にその子と恋人同士になっていてもおかしくない感じよね」 「さわやか笑顔でとんでもない発言するな!!」  鈴乃のさらっと爆弾発言に英斗は言い返す。その時だった。 店のベルの音で客が来た事が分かり、英斗が何気に顔をそちらに向けると紅葉と千秋が入ってきた。そして、偶然にも透明の板張りを挟んだ後ろのテーブルに紅葉たちが座ったのだった。  英斗と鈴乃は二人の会話に聞き耳を立てる。  そして、例の会話が聞こえたのだった。   「俺では不満か?」  突然現れた英斗に紅葉と千秋は驚いてしばらく啞然としていた。 「え?え?なんで、お兄ちゃんがここにいるの??」  紅葉が英斗を見て不思議そうに言う。 「鈴乃とお茶をすることになってここにいるだけだ」  怒っているように見える英斗におずおずと紅葉が声を掛ける。 「・・・お兄ちゃん、なんか怒ってない?」 「・・・別に」  英斗のそっけない返事で確実に怒っていることを悟る。でも、何にそんなに怒っているのかが分からない。  しばらく沈黙が流れる。  そこへ、鈴乃が助け舟を出した。 「心配無用よ、妹ちゃん。英斗はただ単に、ヤ・キ・モ・チ、を焼いているだけだから。全く、大人気ないわよねー。妹ちゃんを誰にも取られたくないのは分かるけど、さっきの会話なんて仲良いからできる会話って言うだけじゃない。そんなんに目くじら立ててどうするのよ」   鈴乃の言葉に何も言い返せないでいる英斗を見て紅葉が言葉をかける。 「わ・・・私が大好きなのはお兄ちゃんだよ。お兄ちゃんだけだよ!」  紅葉の言葉に英斗は息を吐く。 「悪かった。俺が大人気なかったよ」  その様子を見ていた千秋が驚いたような声で話す。 「・・・お兄さんて、本当に紅葉の事が大好きで仕方ないんですね」  千秋はそう言うと席を立って英斗の前まで来るとお辞儀をしながら言葉を紡いだ。 「私が言うのもおかしいのですが、紅葉の事、よろしくお願いします」 「・・・千秋ちゃん」  千秋の言葉にちょっと涙が潤んでいる紅葉。 「・・・ただ、紅葉を泣かしたら本当に私が貰いますからね!」  千秋の言葉に英斗が固まる。その様子を紅葉がハラハラしながら見ている。    そして、千秋の宣戦布告ともいえる言葉に英斗が言う。 「安心してくれ。紅葉は俺が必ず幸せにしてやる」  英斗の強い言葉に紅葉の中で優しい音色が響く。  それは、安心感に満ちた優しい旋律だった・・・。                              (完)
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