3&4.

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3&4.

  3.  帰りの車の中で英斗は若干の苛立ちを感じていた。紅葉を友達だと言い放った新の言葉に腹を立てている。このことを紅葉に言うべきか、言わないでおくべきか・・・悩みどころだった。紅葉のことは傷つけたくない。しかし、黙ったままでいるのも残酷な気がする。ああだこうだ悩みながら運転しているといつの間にか家に到着していた。  「あっ!おかえり、お兄ちゃん」  紅葉が笑顔で英斗を迎える。その顔を見ると気持が締め付けられる思いだった。 「・・・紅葉、一つ面白い心理学を教えてやろうか?」 「面白い心理学?なになに?気になる~!」  何も知らない紅葉が興味津々に聞いてくる。英斗は胸が刺さるような感覚を覚えながら話した。 「内容は、キスをしない男の心理だ」 「・・・え?」  英斗の言葉に紅葉が言葉を詰まらす。 「えっと・・・、やっぱり聞くのやめておくね」  紅葉はそう言って踵を返す。その背中に英斗が言葉を発した。 「男が付き合っている彼女にキスをしないのは本命の彼女がいたり、本当に好きな女性がいる場合はキスをしないという心理がある。男が真面目な人であればあるほどそれは起こりやすい」  その言葉に、紅葉が足を止めた。英斗の言葉に体が小刻みに震えだす。 「でも、優しいのは本当だもん!いい人だもん!!だから、私は新さんを信じるもん・・・」  最後の方は涙声になっていた。英斗が言う。 「・・・悪い、話す内容じゃなかったな」  そう言って、紅葉を後ろから優しく抱き締めた。 「・・・あのね」  紅葉はそう言って、今日のカフェで千秋に聞いた話を始めた。  ケーキと紅茶で紅葉と千秋は楽しくおしゃべりしていた。そこへ、ふいに千秋が言った。 「・・・あのさ、あの時の合コンをセッティングしてくれた雄一(ゆういち)に会ったんだけど・・・。雄一が新さんに『彼女とはどこまでいったんだ?』って聞いたんだって。そしたら、まだ何もしていないよっていう返事が返ってきたもんだから、どうして?って、聞いたら、新さん、『可愛いけど妹のような感じもあるからね。それに、そういう事するのは気持ちの整理がきちんとついてからかな?』って言ってたんだって。でも、元彼女とかはいないから誰の事だろうって思ったみたいよ」 「それって・・・つまり・・・」 「本命がいるかもってことよね・・・」 「・・・新さんが、そんなことを言っていたの?」 「言っていたわけじゃないけど、そうとしか考えられないわよね」  千秋の言葉に紅葉が動揺する。でも、それならキスをしないのも何となく辻褄が合う。  でも・・・。 「私は新さんを信じるよ」  カフェでの話が終わり、しばらくの間沈黙が流れた。その沈黙を紅葉が破る。 「私は新さんを信じる・・・。キスしないのももしかしたら他の理由かもしれないし・・・」  その言葉に英斗は自分が余計な事を言ったことを後悔した。抱き締めていた腕を解く。 「まあ、もしフラれたらその時は『バーカ、バーカ』って笑い飛ばしてやるよ」 「お・・・お兄ちゃん?!」 「冗談だよ。・・・今日はゆっくり休め。冷えるから暖かくして寝ろよ。なんならお兄ちゃんが寒くならないように添い寝してやろうか?」 「なっ・・・、何言ってるの?!」  そう言って紅葉が顔を赤らめる。 「冗談だが?」  英斗が意地悪そうな顔をする。その顔に悔しさを感じながら紅葉が顔を真っ赤にしたまま反抗した。 「分かってるもん!」    部屋に戻ると、千秋からラインがきていた。 『今度、新さんのバイト先に行ってみようよ!ちょっと、気になることがあるんだ』  紅葉は悩んだ。新からバイト先には来ないでほしいといわれている。でも、千秋からの「気になること」が何なのかも気になる。悩んだ末、意を決して新のバイト先に行くことを伝えた。 4.  ある晴れた土曜日。紅葉と千秋は新のバイト先の近くまで来ていた。近くまで来たものの、店に入る勇気はなかったので、遠巻きに店の様子を伺っている。遠くから見たら怪しい二人に見えるだろう。その二人に気付いた店の人が二人に近づいた。 「うちの店に何か用かしら?」  綺麗な女性だった。いかにも大人の女性という感じで大人の色気が漂っている。 「ご、ごめんなさい!そのっ、決して怪しい者ではなくて、えっと、そのっ・・・」  慌てふためきながら説明する紅葉の様子を女性はじっと見つめていた。 「あなた、クリスマスイブの夜に新くんと一緒にいたお友達?」 「・・・え?」  突然の女性の言葉に紅葉と千秋が呆気にとられる。 「あの・・・私は・・・」  紅葉が恋人と言っていいのか分からずにしどろもどろになっていると、千秋がすかさず言葉を放つ。 「この子は紅葉と言って新さんの恋人ですが?どうして、お友達と言ったのですか?クリスマスイブに男女が一緒にいるとすれば普通は彼女だと言いませんか?」  千秋の言葉に女性は説明した。 「新くんが言っていたのよ。私、あの日に新くんとそこの彼女を見かけて新くんに彼女?って聞いたら、友達ですって言ってたから、てっきり友達だと思ったのよ」  女性の言葉に唖然とする。紅葉のことを友達だと説明していた理由が分からなかった。いや、考えられるとすればバイト先に本命がいるということかもしれない。 「新さん、付き合っている方がいるんですか?」  恐る恐る紅葉が女性に聞く。しかし、女性から返ってきた言葉は、 「新くんに彼女がいるなんて話は聞いたことないわ。知っているのは、好きな人がいるらしいということくらいよ。ところで、紅葉ちゃんだっけ?あなた、確かえ―――――」  そこまで言いかけたとき、背後で男の声がした。 「鈴乃さん!紅葉ちゃん!」  声の主は新だった。息を切らしてこちらに走って来る。 「紅葉ちゃん、なんでここに?バイト先には来ちゃダメだって・・・」  その時だった。千秋が新を睨みつけるように言う。 「紅葉が友達ってどういうこと?」  その言葉に新の表情が一瞬凍る。新は鈴乃の顔を見た。鈴乃はジェスチャーで「ごめん」のポーズをしている。 「えっと、それは・・・その・・・」  新がどう説明するべきか悩んでいる。紅葉はその様子に強い衝撃を受けた。 そして一言・・・。 「・・・帰ります」  そう言って、踵を返した。千秋が紅葉に寄り添うように去っていく。新はその様子をただ茫然と見ていた。 「・・・追いかけなくていいの?」  鈴乃の言葉に新は何も言わない。 「今日はもう上がりなさい」  鈴乃はそれだけ言って、店に戻った。  新はしばらくその場から動けずに、ただ空を見上げていた。  紅葉は帰り道、一言も喋らなかった。余程ショックだったのだろう・・・。千秋もなんと声を掛けて良いか分からず黙っている。いつもは駅でサヨナラするが、紅葉が心配だったので家まで送り届けることにした。家の前に着いてチャイムを鳴らすと英斗が出てくる。モニターで紅葉の様子がおかしいことに気付き、出てきたのだ。 「紅葉!大丈夫か?!」  千秋が今日のことを説明する。英斗は話を聞いて千秋にお礼を言った。そして、紅葉を部屋に連れて行きベッドに横たわらせると、涙が溜まっている瞳をそっと拭う。 「・・・ねえ、お兄ちゃん。私は新さんにとって恋人ではなくて妹だったのかな?友達だったのかな?恋人だと思い込んでいたのは私だけだったのかな・・・?」  そう言いながら、取り留めもなく涙がどんどん溢れてくる。英斗が紅葉の頭を優しく撫でた。 「・・・今日はもう休め。寝るまで傍にいてやるから」   英斗の撫でられている掌に何処か安心したのか、紅葉は深い眠りに落ちていった・・・。
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