プロローグ&1.

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プロローグ&1.

~プロローグ~  「この子が僕の妹になるの?」    両親が連れてきた赤ちゃんに幼い少年は瞳を輝かせた。両親はその様子に安心し、少年の前に立ち、赤ちゃんの顔が見える所まで屈む。赤ちゃんは白いおくるみに包まれながらスヤスヤと寝息を立てていた。あまりの可愛さに少年の顔が優しい表情になる。父親が少年の頭を撫でながら微笑んだ。 「名前は紅葉(もみじ)というんだ。英斗(えいと)はお兄ちゃんになるんだよ」  父親の言葉に英斗と呼ばれた少年は紅葉の小さな掌を優しく握る。 「僕は英斗だよ。これからよろしくね、紅葉・・・」      そして、英斗が中学生になり、紅葉が小学生の時は・・・。  こんこんこん・・・。  英斗の部屋をノックして紅葉が入ってきた。 「お兄ちゃん、お母さんとクッキー焼いたんだ。これお兄ちゃんの分だよ。今回は蜂蜜入りのサクサククッキーを焼いてみました~」  紅葉はそう言ってお皿にハートの形をしたクッキーを綺麗に並べて英斗の部屋にやってきた。英斗は勉強の手を止めてクッキーをじっと見つめる。 「・・・なんで、ハート型?他にも渡す相手がいるのか?」  英斗の言葉に紅葉はきょとんとした顔をする。英斗が更に言葉を続けた。 「ハート型ってことは好きな奴でもできたのか?」 「うん!大好きなお兄ちゃんのために作ったよ!」  紅葉はそう言って笑顔満開の顔をする。英斗はその屈託ない紅葉の言葉に戸惑いながらお礼を言った。 「・・・ありがとう」  英斗はそう言って、一つ口に放り込む。 「美味しい・・・?」  紅葉が心配そうに尋ねる。英斗は咀嚼して飲み込むと言った。 「・・・しょっぱい」 「えっ!!」  英斗の言葉に紅葉が焦った声を出す。 「あれ?あれ?何を間違えたのかな?お砂糖とお塩を間違えたのかな?味見したときは美味しくできたと思ったんだけど・・・」  紅葉があたふたと慌てだす。その様子に英斗は笑いながら言った。 「嘘だよ。美味しくできてる」  そう言って、紅葉の頭を優しく叩く。 「お・・・お兄ちゃんの意地悪~!」  紅葉が涙目になる。 「ごめんごめん。あまりに美味しくできていたからつい意地悪したくなっちゃったんだ」 「・・・じゃあ、ホントに美味しいの?」  紅葉が涙目で心配そうに聞く。 「うん!すごく美味しいよ!」  英斗の嬉しそうに言う顔に紅葉は安心した。英斗が紅葉に言う。 「また、作って欲しいな!」  英斗の言葉に紅葉が笑顔になった。 「うん!また作るね!」      紅葉と英斗の仲の良さは近所でも評判だった。面倒見が良い英斗と、どこか天然でよく笑い誰にでも優しい紅葉。よく近所の人達がおしゃべりで何かと話題に出していた。 「日向(ひゅうが)さんの所のお子さんっていい子よね~」 「お兄ちゃんの英斗君はしっかりしていて面倒見も良いしね~」 「あら!紅葉ちゃんも素直で可愛いわよ~。この前ね、保育園児くらいの男の子が公園で転んだのを見たんだけど、近くにいた紅葉ちゃんが自分のハンカチを水道で濡らして汚れた顔とかを拭いてあげていたのよ。優しい子だわ~って思ったわ。うちの子も見習ってくれたらいいのに、って思ったわよ~」  そういう話が良く飛び交っていた。仲のいい兄妹で、英斗は可愛い妹である紅葉をとても大事にしていた。紅葉も大好きな兄という感じですごく慕っていた。  仲の良いまま、紅葉と英斗は子供時代を過ごした。  そして、英斗は大学を出て社会人になり、紅葉は大学生になって初めての恋人ができた。 1.    「お待たせ、紅葉ちゃん」  そう言って三吉 新(みよし あらた)は紅葉の肩を軽く叩いた。 「こんにちは、新さん」  紅葉はそう言って軽く頭を下げる。新は紅葉の恋人だ。  新との出会いは友達に半ば強引に誘われての合コンだった。紅葉は最初断ったのだが、友達に「兄離れしなさい!」と、言われて責められてしまったので渋々承諾したのだった。英斗に相談したら、「それも一つの人生経験だ」と言われて参加することになってしまい、そこに来ていた新と知り合い今に至る。新も最初は乗り気ではなく、数合わせで強引に参加させられたらしい。話していく内に意気投合していき、付き合うことになったのだ。そして、その事を英斗に報告したら、目が点になって、しばらく固まってしまうという事態が発生。英斗はすごく心配して変な奴じゃないかどうか聞いたりして心配そうな顔をしたが、最後には笑顔で言葉を紡いだ。 「紅葉が選んだ奴なら大丈夫だと信じるよ。でも、もし困ったことがあったらいつでも相談に乗るからな」 「ありがとう、お兄ちゃん」 「・・・それにしても、紅葉に恋人か~。昔はよくお兄ちゃん大好きーって言ってくれてたのになぁ~」  英斗はそう言ってちょっとだけいじわるそうな顔をした。 「こ・・・子供の頃の話だもん!!」  紅葉が顔を赤くしながら反論する。英斗はその様子に微笑ましさを感じて紅葉の頭を撫でた。 「紅葉はいくつになってもその純粋さは変わらないな。まあ、フラれたらその時はその辛い心の傷にさらに塩を塗り込んでやるから安心しろ」  英斗がさらっと怖いことを言う。 「お兄ちゃんの意地悪―!!」 「あはは、冗談だよ、冗談。でも、困ったことがあったら本当に相談に乗るから遠慮するんじゃないぞ?」  そう言って頭を優しく叩いた。紅葉はその仕草に居心地の良さを感じながら照れ笑いして答える。 「・・・うん。ありがとう、お兄ちゃん」    新と付き合いが始まってからは色々なところにデートに行った。そして、付き合い始めて半年が経ち、今日はクリスマスイブ。町のいたるところでクリスマスムードだった。あるショッピングモールでは大きなツリーが飾られていてキラキラと光っている。紅葉がそのツリーに魅入っていると、新が少し離れた場所でこっそりと写真を撮っていた。シャッター音に気付いて抗議の声を上げる。 「勝手に写真はダメです~!!」 「ごめんごめん、いい表情をしていたから撮りたくなったんだ」  顔をふくれっ面にしながら紅葉が言うと、新は微笑みながら謝る。  そんなやり取りをしながら二人で笑い合っていた。  その二人の様子にある女性が少し離れたところから見ていた。 「新くんに・・・その隣にいる子って、まさか・・・」  歩いている足を止めて二人を見ていると、女性と一緒にいた男性がそれに気づき、声を発した。 「どうした?あの二人は知り合いなのか?」 「ええ、ちょっとね・・・」  女性はそう言っただけで、何も言わない。 「さあ、今日はパーッと飲むわよ!!」  女性はそう言うと、男性と一緒に夜の闇に溶け込んでいった。  その頃、紅葉と新はイタリアンレストランにディナーに来ていた。テーブルにはチキンとピザが並んでいる。 「美味しい・・・」  紅葉はそう言って、顔をほころばせた。 「紅葉ちゃんは本当に美味しそうに食べるよね。見ている僕までつられそうだよ」 「だって、ホントに美味しいんだもん・・・。マルゲリータ最高~。チーズ伸びる~」  満面の笑みで料理を頬張っていると、そこにケーキが運ばれてきた。ケーキはクリスマスらしくデコレーションされているイチゴショートケーキ。飾りとして小さなサンタが乗っている。あまりの可愛さに紅葉は店員に言った。 「あの!このサンタさん、持って帰ってもいいですか?!」  紅葉のその言葉に店員は驚くような表情を見せたが、持って帰ることを許可してくれた。 「・・・では、キレイに洗って袋に包みますね。帰りまでにはご用意しておきます」  その言葉に紅葉は笑顔になる。店員はそのサンタを大事そうに布の上に乗せて持っていく。その様子を新は微笑みながら見ていた。 「サンタを持って帰りたいって、紅葉ちゃんらしいね。部屋に飾るの?」 「うん!」  そんな会話をしながらケーキを食べていると、新が「そうそう・・・」と言って話し始めた。 「クリスマスプレゼントを今から一緒に買いに行こうと思うのだけど、何か希望はある?そんな高いものは無理だけど・・・」  新がそう言い、紅葉に聞く。紅葉はその言葉に顔を赤らめながら「あ・・・」とか「う・・・」とか言って、言葉にする様子をためらっている。そして、意を決して欲しいものを伝えた。 「・・・キス・・・」 「・・・え?」  あまりの小さな声に新が聞き返す。紅葉は真っ赤になりながら今度ははっきりとした口調で言った。 「キスして欲しいです!」    紅葉の欲しいプレゼントに新はポカンとし、顔を赤らめ始めた。 「えっと・・・その・・・」  新はどう返事したらよいか分からずに動揺している。  実は付き合ってもう半年たつが体の関係は勿論、キスもまだしたことが無かった。紅葉が友達に話したら、友達には「今時、珍しいカップルよね」と言われてしまった。でも、とても大切にしていてくれるのは肌で感じているので特に不思議にも感じてなかったし、「時期が来れば・・・」と信じて、特に不信感も無かった。しかし、今回は友達に言われたことがある。 「クリスマスイブでも、キスしなかったら怪しいわね・・・」 と、友達は新たに対して不信感を露わにしていた。そして、更に 「プレゼントに何が欲しいって聞かれたら『キスして!』ってかわいい顔でおねだりしなさい!紅葉は奥手で大人しいところがあるからね。それくらいのワガママは言っていいと思うわよ」  そして、勇気を出して言ってみたのだ。新は紅葉のその言葉に戸惑い、困った顔をしている。紅葉はその様子を見て慌てて言葉を紡ぐ。 「ご・・・ごめんなさい!!我が儘ですよね!すみません!忘れてください!変なこと言ってごめんなさい~!!」  紅葉はひたすら謝った。新が顔を赤らめながら言葉を発する。 「・・・もう少し待ってくれるかな?決心がついたら、その・・・キス・・・するからさ・・・」  新が顔を赤らめたまま照れくさそうに言う。そして、顔が赤くなっていることを感じて誤魔化すために更に言葉を発する。 「と、とりあえず、ケーキ食べようか!冷めちゃうし!」 「あの・・・ケーキなので元々熱くないと思いますが・・・?」  新の言葉に紅葉の突っ込みが入る。新は更に顔を赤面させて少し固まってしまった。  その後、紅葉の希望で紅葉にはブレスレットを買いに行くことになり、新にはマフラーをお互いにプレゼントすることになった。  そして、その日は家に帰った。 「ただいまー」  家に帰ってきた紅葉に英斗が話しかけてくる。 「おかえり、紅葉。楽しかったか?」 「うん!あっ、そうだ!」  紅葉はそう言って鞄の中からガサゴソとあるものを出す。 「メリークリスマス!お兄ちゃん!!」    そう言って、ケーキに付いていたサンタクロースを満面の笑みで英斗に見せた。 「・・・どうしたんだ、コレ?」  紅葉はサンタクロースを貰ってきた経緯を話した。その話に英斗は微笑みを浮かべる。 「・・・やれやれ、紅葉らしいな。まあ、これはありがたく頂くよ。それと・・・」  英斗はそう言ってラッピングされた箱を紅葉に渡した。 「お兄ちゃん、これ・・・」 「お兄ちゃんから紅葉にクリスマスプレゼントだよ。メリークリスマス、紅葉」 「ありがとう、お兄ちゃん!開けていい?」 「いいよ」  リボンを解き、包装紙を綺麗に剥がし、箱を開ける。中には・・・ 「わあ~、可愛い~」  腕時計が入っていた。淡いピンクを基調としていて、文字盤の周りにはスワロフスキーがあしらわれておりキラキラと優しい光を放っている。 「紅葉、こういうの好きだろ?職場の女性陣に聞いて、売っていそうな場所を教えてもらったんだ」 「ありがとう。大事にするね!」 「・・・で?俺には?」 「・・・え?」  突然、話を振られて紅葉は目が点になる。そして・・・、 「お兄ちゃんの机に置いておいたはずだけど・・・?」 「知ってる」 「お・・・お兄ちゃん~!!」  紅葉が顔を膨らませながらポカポカと英斗を叩く。 「あはは、面白い反応が見れたな!サンキューな、お手製のココアクッキー美味かったぞ」 「も~、びっくりさせないでよー」  相変わらずのやり取りをしながら、紅葉はふと思ったことを口にした。 「ねえ、お兄ちゃん。付き合って半年が経つのにまだキスもしていないのって珍しいの?」  紅葉の唐突の言葉に英斗が固まる。 「・・・キス、まだしてなかったのか?」 「うん。新さんから『決心が付くまで待って』って言われているからね」 「ふーん・・・」  紅葉の話に英斗はどこか違和感があったが、確信があるわけではないので何も言わないことにした。  そして、夜は更けていく・・・。
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