もぞこいものたち

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 祖母の家は母家と離れは全く繋がっていない。祖母の家はかつて魚屋を営んでいた。道路に面した引き戸から入ると、掃除しやすいようなコンクリートの床に電源の入っていない業務用の大きな冷蔵庫が魚屋だった名残を感じさせた。その奥が母家となっていた。魚屋をやめたのは祖母が高齢なのと近くに小さなスーパーが出来たからだった。今では祖母と病気で仕事を辞めて戻ってきた伯父が母家で暮らしているだけだ。  離れはあとから建てられたものだ。母家から独立して建てられ、一階の納戸の上に無理やり建てられたもので、長い階段を昇らないとならなかった。十年近くは使われてはいなかったはずだ。  離れはかつては私の従姉妹が使っていた。三つほど年上の姉と私と同い年の妹。私はその従姉妹とは仲が悪いわけでもなく、だからといっていいわけでもなかった。やはり同い年で同性の従姉妹とは仲良くなれないものだ。いや、理由はそれだけではなかったけれど。従姉妹の父は病死し、母は長く入院していた。それで祖母の家に引き取られ、一緒に母家で暮らすのも窮屈だろうと(しつら)えたものだ。その従姉妹も大人になり、独立して出ていった。  離れは何部屋あるかよく分からなかったが、手前の二部屋だけ使うことを許された。そこならどう使おうが構わないらしい。玄関からすぐの荷物が積み重ねられた広い部屋と小さな和室を用意してもらった。 「ここならいくら騒いでも聞こえねえから」祖母はそう言って笑った。私は正直ホッとした。いまだに〈ニンゲン〉を認識しない五匹の小さな怪獣に手をやいていたのだ。祖母は自分は脚が悪いのでなかなか来れないからと言い残し、しんどそうに階段を降りていった。  やっと少しは落ち着けそうだと長い息をはいた。張本人である仔犬たちは荷物が積み上がってる所を登ってみたり、細い隙間に嵌ってみたりとすでに楽しそうだった。どうやらなんとか暮らしていけそうだ。ビビだけは私を見上げて首を傾げていた。  生活は不便ながらも快適なものだった。どんなに騒いでも誰にも迷惑をかけないというのが、私をだいぶ精神的に楽にさせた。仔犬たちはすくすくと育っていった。気がついたらひと回りも大きくなっていた。だがそれに反してビビがどんどん痩せていった。シェルティとは小さなコリーのようなふわふわとした豊かで艶やかな毛が美しいのが自慢の犬だ。だがだいぶ痩せてしまい、毛艶が悪く量も少なくなっていた。尾っぽは三十年も使った箒みたいに歯抜けになっていて、骨が浮き出ていた。仔犬たちばかりに気を取られていて、ビビの不調には気付かなかった。そのうちに乾燥したフードを食べられなくなった。喉を通っていかないのかもしれない。それでふやかしてみた。ふやかすのは乾燥したフードを水でもどして水分を多めにして食べやすくするためだ。それでも食べられなかった。仔犬たちは乳を欲しがった。だが食べられないせいもあり出が悪くなっていた。もうそろそろ乳離れしていい時期だったので粉ミルクに切り換えることにした。それでもおっぱいに喰らいついてくるので、毎回一匹ずつひっぺがしていく作業を繰り返すことになった。  私は夕食時に祖母と伯父にビビが食べなくて困っていると愚痴った。すると伯父が仔犬を見ててやるから、少し長く散歩に行ってきたらどうかと提案してくれた。
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