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一階に降りて行くと何故か妹が仏頂面で座っていた。剥いてあった林檎を口に頬張りながら隣に座った。
「お姉ちゃんさあ、他人に迷惑かけ過ぎだよね」いきなり妹の説教が始まった。「お母さんにもお義兄さんにもおばあちゃんにも伯父さんにも。ちゃんと分かってるの?」
台風の日に送ってきた時ですら何も言わなかった妹が堰を切ったように言葉が止まらなかった。とうとうと説教をする姿を見るのは初めてだ。小言を聞きながら、ずいぶん大人になったなあと明後日の方向に思いを馳せていた。
妹は祖母の家の住所すら分からない旦那と連絡を取り、道順を説明してくれていた。
「呑気に林檎なんて食べてる場合じゃないでしょ! ちゃんと聞いてる?」
「聞いてる」
そう答えた私に妹は呆れてため息をついていた。
仔犬たちはいつもと変わらず元気だった。そんな姿をみて意外と強いものだなと思った。
いまだに〈飼い主〉を理解してるとは思えなかったけれど、伯父にも母にも懐いたところをみると〈ニンゲン〉というものはどうやら認識したらしい。
そろそろ夏休みは終わりに近づいている。この仔犬たちもそろそろ新しい家庭に旅立つ時期がきていた。
旦那が道に迷った挙句やっとのことで到着した。
「あらあら遠いところから。あや、こいな旦那だったのがい?」と祖母が驚いたように言った。そういえば旦那と会うのは初めてだった。旦那は恐縮しっぱなしで、妹の小言の時だけ少し表情を緩ませていた。
「帰ろうか。そろそろ風呂入るくらいできるでしょ」懐っこそうに寄って来た仔犬たちを見ながらそう言った。多少もぞこい気持ちにでもなったのだろうか。
〈了〉
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