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息を切らしながら会議室に飛び込んだ。
訓練後だったため、集まった8名の潜水士は濡れたウェットスーツのままだった。
私は前かがみになりながらパイプ椅子に腰かけ、船長の説明に集中した。
「人魚島付近で沈没した遊覧船の状況だが、水中カメラの情報により、水深15メートル付近で沈んでいることが分かっている。先に到着した部隊により救助が進んでおり、現在海上で発見されている大人7名のうち5名まで救助が完了。しかし、小学生の女の子1名が行方不明だ。我々は海中で子供の捜索を行う」
小学生の女の子が行方不明。
詩織の微笑んだ顔が脳裏に浮かび、目を強く瞑る。
もう泣いてばかりの自分じゃない。
「各自の捜索区域を割り当てる。上島と望月は船内を捜索してくれ」
「はい」
「……以上だ。解散」
会議が終わり、一斉に隊員が会議室を飛び出す。更衣室から酸素ボンベなどを取り、急いで甲板へ向かった。
船が沈没してから10分。早く見つけないとまずい。
甲板に出るとさっきより空が暗くなり始めていた。日没の時間が迫っている。夜になったら作業ができない。
上島先輩が素早く腕時計を確認した。
「海の状況や日没までの時間を考えて、今日1人が潜れるのは約15分程度だ」
「はい」
この潜水次第で状況が全て変わる。良い方にも、悪い方にも。
20キロの重い空気ボンベを素早く背負った。肩にかかる重圧に負けないように、深呼吸をする。
ゴーグルを装着し、目の前に広がる海を真っすぐ見つめた。
「海面よし」
安全確認をし、一歩前へ進む。呼吸を整え、勢いよく海に飛び込んだ。
ドボン。重い音が響き、水しぶきが飛び散る。ウェットスーツに水が染みこんでいき、体が薄い膜で包まれた。
高い波にのまれないように急いでレギュレーターを口に咥え、先輩の後に続いて青色の世界に潜り込む。
ここからは言葉が通じない。意思疎通は手のジェスチャーのみだ。
故郷の海で、命がけの捜索が始まった。
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