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――何か、手がかりはないのか。
サンゴ礁、ゴロゴロと転がった石、鋭い岩の間をライトで照らし、注意深く目を凝らす。
――探せ。
――小さなものも見落とさずに。
顔を左右に素早く動かす。海の振動を顔に感じ、海に頬を叩かれているようだった。
船の先端付近に辿り着き、辺り一面の岩の隙間を確認する。
――絶対にどこかにあるはずだ。居場所を掴む手掛かりが。
サンゴ礁に被さった砂を右手で振り払った。
――何か。何か。
砂ぼこりがふわっと海中に舞い、煙のように私の体を包む。
そのとき、ライトの光に反射して小さな光が煌めいた。
あれはなんだ。
心臓の鼓動が潮騒のように騒めく。
すぐさま小さな光を掴んだ。ごつごつとした感触が右手に伝わり、目を見開く。
小さな手鏡だ。
持ち手の部分に黒いペンで子供の名前が書いてある。会議室で聞いた遭難者の名前と一致した。
小さすぎて水中カメラでは発見されなかった漂流物。
暗い海底に一筋の光が照らされた。
この近くにいるかもしれない。
近くで泳いでいた先輩にハンドシグナルを送り、急いで辺りを捜索する。
残り1分。
『どうか居場所を教えて』
ライトの光が真っすぐ前に伸び、暗い海を切り裂いていく。
微かな海中の音に全身の神経を集中させた。
あと30秒。
水をかく振動が大きくなる。
口から、腕から、お腹から、足から。
全身から私の泡が海中に溢れ出た。
あと10秒。
『私の想い、届いて』
心の中で大きく叫んだ。
静かな海底で私の声だけが、頭の中で反響している。
その時、フワフワとした何かが暗闇の中から近づいてきた。
クラゲ。
慌てて避けようとした時、無数の白いわっかが顔で弾けた。
……違う、クラゲじゃない。
バブルリングだ。
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