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引き戸がガタガタと音を立てた。埃の積もった部屋には荷物が雑に置いてある。私は足元に気をつけて歩き、窓を開けた。心地よい風が吹き込む実家で、私は大きくため息をついた。
下り坂に続く家並みの向こうに、私も昔よく遊んだ公園があって、当時にはなかった色鮮やかな複合遊具が二階からでもよく見える。子供の自分なら、目を輝かせて遊んだだろう。
就職を機に実家を離れて、もう十五年近く経つ。父に先立たれて一人暮らしをしていた母が、半年前にくも膜下出血であっという間に亡くなった。葬儀の時はバタバタしたが、私の仕事がちょうど繁忙期ということもあり、その後はなかなか実家に足が向かなかった。
というのは、体のいい言い訳である。遺品整理ともなると、やはり母の面影をどこかで感じてしまい、正直なところ実家に戻るのが辛かった。
何度か片付けようと来たことがある。でも、ひとつひとつ手に取るたびに、母が好きだった上着だとか、母の日にあげたカバンだとか、物の全てに母の生きた証が染み付いていて、触れるだけで胸が苦しくなる。
――捨てなくちゃいけない。
そう思えば思うほど、辛くなる。母はこの家で生きていた。私は『母』の物が捨てられない。母との思い出をなかったことにはできないのだ。
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