遺品整理

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 私が短大を卒業するまで過ごした家だ。ベタだけど、柱にいくつもあるキズは、私と兄の成長の証。壁紙が一部分新しくなっているのは、父と兄が喧嘩して、怒りにまかせて兄が殴ってあけた穴を修繕した跡。でも、私がマジックで小さく女の子を描いてしまった落書きは、母がかわいいから残しておこうかと笑ってくれた。  兄や私の工作をたくさん褒めてくれて、リビングのテレビ台や棚にいつも飾ってくれた。賞を取った絵は、きちんと額に入れて、高いところにかけてくれた。  壁にはいくつもの画鋲跡。家族のスナップ写真をたくさん貼っていて、母はよく眺めていた。  中学生の頃は何かにつけて反抗的だった。口を開けば勉強勉強とうるさくて、顔も見たくないと思っていた。友達のことまで口を出してきて、母と大喧嘩になったことがある。   「私の友達のことにまで、口出さないで! お母さんは仁美のこと嫌いでも、私にとっては大事な友達なんだから!」 「結花のことを大切にしてくれない友達なんか、本当の友達じゃない!」 「うるさいな! ほっといてよ! 好きで一緒にいるんだから!」  今思えば、いいように利用されていたことを、母は気付いていたんだ。でも、私の狭い世界の中では、みんなといるそこが全てで、逃れようのないものだった。
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