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「仁美が行かない高校へ行きたい」
ボソッと言った私の一言を聞き逃さなかった。母は何も言わずに私の話を聞いてくれた。
今まで仁美に付き合って一緒に塾をサボっていたが、塾を変えたことでまじめに塾へ行くようになった。それでも学校では仁美たちと一緒にいたけど、卒業するまでの辛抱だと思うと乗り越えられた。
高校の合格発表の時、自分の番号を見つけて、母と二人で大喜びした。自分らしく過ごすために、自分で決めた進路。勉強も頑張った。母はいつも応援してくれた。私に良かったねと言う母の目も潤んでいた。
廊下の隅の目立たないところに、へこんでいる箇所がある。あの頃の私が、押さえつけられた感情をどうにもできずに蹴ったあとだ。久しぶりに見ると苦い思い出がよみがえる。
「結花はおとなしいから」
「結花はなんにも言わないから」
母はそんな私に気を揉んだことだろう。兄は反対におしゃべりだったが、思ったことをなんでも口に出す人で、それはそれでまた手を焼いたであろう。母の困った顔はよく覚えている。でも、しばらくしたらすぐに笑顔になり、「くよくよしても仕方ないか」と、切り替えの早い人だった。母のそんな笑顔にどれほど救われただろうか。
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