淡い恋心

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淡い恋心

俺は慌てて手紙から手を離すも、流れ出る涙は止める事が出来なくて、振り返ることも出来ず涙を拭いそのまま立ち尽くした。 「美生…?何してんの?」 「なんでも…ないっ…」 「泣いてるの?また何かされた!?」 「ちが…っ、何でもないから…っ」 見てしまった手紙をそっと元に戻すと、美剣はカバンを置いてその手紙に目をやった。 「その手紙…」 「ごめんっ、置いてあったからつい…けど中は見てなからね…っ」 「うん。わかってる」 この手紙の内容を、美剣に直接聞いてもいいのだろうか… でもなんでそんなことが気になるのかなんて聞かれたら、俺はどう答えたらいいんだろう。 でも、きっといつか美剣にだって好きな人が出来たり、誰かと付き合ったりする日が来るんだよね… せめてそれまでは、一緒にいて欲しいっ。 「貸して?その手紙…」 「えっ?」 「いらないから」 そう言って美剣は机の上の手紙を手に取ると、俺の目の前でそれを破り捨てた。 「えっ!?なんで…っ」 「必要ないから」 「中は…?見た…?」 「うん…でも俺、他に好きな人いるし…」 「好きな人…他に…いるんだ…」 美剣に好きな人がいたなんて知らなかった。 ずっと一緒にいたのに俺は美剣の何を見ていたんだろう… 思春期に女の子を好きになることなんて当たり前なのに、いつかそういう日が来るって分かってたのに、俺は自分の気持ちに嘘が付けなくて、平気な素振りができなくて再び溢れ出す涙を抑えられずとっさに顔を背けた。 「美生…?やっぱり何かあったの?」 「…っ、何も…何も無いよ…っ、俺…そろそろ家、帰る…っ」 帰れば父に殴られる。 だけどもうここにはいられない… 自分の気持ちを押し殺すことも、伝えることも出来ないのに一緒にいるなんて、殴られるよりもきっと苦しい。 俺は振り返らずに部屋の扉を開けて出ていこうとしたが、美剣に腕を捕まれそれを阻止された。 「まって、美生。俺なんかした!?」 「ちが…っ、美剣は何も…っ」 「じゃあ何で?何で泣いてるんだよ…俺には話せない事なの?」 「話せるわけ…ないだろ…っ」 「…っ、美生…俺は美生にならなんでも話せる。美生は違ったの?」 俺だって美剣にはなんでも話せた。 病気の事だって、親のことだって… 美剣の事を好きだってこと以外ならなんでも話せるよ… でもこれだけは言えないっ。 「美剣は…俺になんでも話せるの?」 「あぁ」 「…じゃあ、美剣の好きな人って誰?」 自分は言えないのに聞くなんてずるいのは分かってる。 でも、美剣の口からハッキリと聞けば諦めがつくかもしれない… ドアノブに手をかけながら掴まれた手の力を抜いて美剣と視線を合わせると、いつもの凛とした美剣と違って瞳が泳ぎ瞬きを繰り返しながら俺から視線を逸らした。 そして――― 「美生…」 「…え?」 「俺の好きな人…美生…っ」 「そ、そんな…っ、それは友達として…っ」 「は、ははっ、そうだよな…困るよな。いくら仲が良いからって好きなんて言われたら迷惑だよなぁ…けど、俺美生に嘘はつきたくない。俺は美生が好き…」 俺が…好き…? それは俺が美剣に寄せる想いと同じ好き? そうだったら嬉しいけど、でもそうじゃなかったら?
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