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虐待
朦朧とする意識の中で昔の事を思い出す…
俺があの家に住み始めてからというもの、体調のいい日は殆ど美剣と一緒に過ごした。
それはそれは本当に楽しかったけれど、その楽しさも美剣といる時だけで、家に帰れば父親からの怒号に怯え、痛みに耐える日々。
それは中学に上がっても変わらなかった。
むしろ、酷くなる一方だった…
「美生…またやられたのか?」
「…うん」
俺の顔に出来た傷を見て美剣が尋ねる。
美剣は俺が父親から暴力を受けていることを知ってはいるが、まだまだ子供だった俺らに真っ向から親に立ち向かうなんてことは出来なかったのだ。
「しばらく俺ん家来ない?」
「ううん、そんな事したら逃げるなって余計に怒られる…」
「…そうだよな」
「俺は平気っ、平気だから…」
平気なんかじゃなかったけど、美剣に迷惑かけたくなくて俺はずっと我慢し続けた。
母も守ってはくれたけど、日に日に激しくなる父の暴力に母も疲労困憊といった感じで見て見ぬふりをすることも少なくなかった。
そんなある日の事、父の腹の虫の居所が悪かったのか学校から帰ってきた早々俺は父に殴られ、玄関の扉に背中を打ち付けた。
ぶつかった時の大きな音と父の怒号に、母が慌てて止めに入るも怒り狂った父は止まらない。
この騒動が表にまで聞こえたのか、チャイムも鳴らさずに美剣が家に入ってきて、勇敢にも父の前に立ちはだかったのだ。
「もうやめてくださいっ!」
「どけっ!お前には関係ないだろ!?部外者は引っ込んでろ!」
「美生は俺の大事な友達ですっ…傷つけるなんていくら父親でも許せませんっ!」
そして騒ぎを聞き付けた美剣の両親も止めに入り、父はやっと諦めたのか部屋に戻って行った。
だけど、俺はもうこの家にいるのが怖くて仕方なかった。
その場から動けず、ただただ震えている俺に美剣は優しく声をかけてくれた。
「美生、家においでよ…」
「でも…っ」
ただでさえ甘えや弱さを許せない父がそんなこと許すはずはなかったけど、母がもう耐えきれなかったのか、美剣の両親に頭を下げ提しばらく美剣の家に預かってもらうことになったのだ。
多分この頃からだろう、俺は美剣の事を友達以上に意識するようになったのは…
だけどそんな異常な感情を美剣に悟られないように、俺はできるだけ感情を隠して過ごしていたつもりだったのだが、ある日…見てしまったんだ。
部活で帰りが遅い美剣より先に俺が帰宅すると、美剣の部屋の勉強机の上に手紙が置いてあった。
(美剣くんへ)
これは明らかに女子からの手紙…
ということはどう考えてもラブレターだろう。
美剣は頭もいいし勉強もできるしカッコイイ。
女子からの告白だってあって当たり前だし、こんなことも初めてでは無いんだと思う。
だけど俺はこの手紙を見た時、羨ましいという感情よりも、悲しいとか悔しいとか…自分が男である事を心底恨んだんだ。
いつか離れていかなきゃいけない、いつまでも近くにいられないし俺のこの思いは美剣には一生届かない。
そう思ったら辛くて苦しくて、涙が溢れて止まらなくなってしまった。
だけどそうこうしている内に、部屋の扉が開いて美剣が帰って来てしまったのだ。
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