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和菓子屋さん
あぁ、嫌な夢を見た…
あれからもう何年も経つと言うのに、こうやって夢に見るのは少し疲れが溜まっているからだろうか。
昔から体が弱かった俺は、父との折り合いが悪く、喘息の発作も相まって家族とは別の場所で生活している。
きっともう、あの人たちと会うことは二度と無いだろう。
俺があの人たちと離れて暮らすようになったのは中2の頃。
父の躾という名の暴力が酷くなり、母の実家であるこの田舎に身を置く事になったのだ。
当時はじいちゃんもばあちゃんもいたのだが、10年前の震災で二人とも他界。
ずっと俺の面倒を見てくれていた叔父さんもついこの間、事故で亡くなってしまった。
だから今ここに住んでいるのは俺一人…
叔父さんが亡くなった今、じいちゃんの代から受け継いできた和菓子屋を急遽、俺が継ぐことになったのだ。
「ぼっちゃん!?起きてます??」
1階の裏戸の方から今日は休みのはずの、お手伝いの志乃さんの声が聞こえる…
眠たい目を擦りながら下に降りていくと、志乃さんは紙袋からタッパーを取り出して1つづつ置いていく。
「朝ご飯、置いておきますね」
「えっ?今日は…」
「分かってますよ、だけどご自分じゃ作って食べないしょう?」
「うん…まぁ」
「作り置き、してきたんで夜も食べてくださいよ?」
「大丈夫だって…俺もうそんな子供じゃないんだから」
「私にとってぼっちゃんは、いつまで経っても子供のままです」
志乃さんは、じいちゃんの代の時からこのお店を手伝ってくれている近所のおばちゃんで、俺がここに連れてこられた15年前からお世話になっている。
震災の時だって、叔父さんと2人きりになった俺とお店を一緒に支えてくれたし、叔父さんが居なくなった今だってずっとここにいてくれる、俺にとって母親みたいな存在だ。
「ぼっちゃん、昌さんが亡くなってからずっと働き詰めでしょう…休みの日くらいちゃんと休んでくださいね」
「大丈夫だよ、ちゃんと休んでる…」
「じゃあ、何かあったら連絡してくださいね」
「うん、わかった」
じいちゃんもばあちゃんも叔父さんも、なんの前触れもなく突然逝ってしまった。
10年前の震災の時、俺は学校で叔父さんは配達、志乃さんはたまたまお休みでじいちゃんばぁちゃんはお店にいた。
叔父さんと一緒に家に戻った俺が目の当たりにしたのは、変わり果ててしまった街並みと瓦礫と化したお店だった…
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