魔法のトローチ

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魔法のトローチ

「いらっしゃいませ」 そろそろ夏も終わりに近づき、少し天気が不安定な日が続いているがまだまだま観光客の多い時期。 ありがたいことにうちの和菓子は、この辺ではちょっと有名で立ち寄ってくれるお客さんも多い。 昔の思い出に浸りながらぼぉっと過ごしている暇はなさそうなので、俺も手を動かし出来上がった菓子の箱詰めを手伝い始めた。 「今日もあまりお天気が良くないですね」 「うん…っ、そうだね…」 こういう天気の悪い日に体調を崩しやすい俺は、急激な気温の変化や気圧なんかがすぐに喘息の発作につながってしまう。 先生にも散々口酸っぱく言い聞かされてたのにも関わらず、俺は確実に無理をしていた。 志乃さんにバレないように裏で隠れて咳をするけど、きっと全部お見通しなんだろう。 だけど後3日もすればこの忙しさもきっと終わるはずだから、それまでは…と自分に言い聞かせながらポケットに入っているはずの魔法のアイテムに手を伸ばした。 「…あれ?」 いつもあるはずの俺の大事な物がない… 今朝、2階から降りてくる時にはポケットに入れたはずだったのに、どこに置いたっけ!? 「志乃さん、俺のトローチ見なかった?」 「あ、ぼっちゃんやっぱり休んだ方が…」 「…っ、いいから、しらない?」 「私は見てないですけど…徳さーん!ぼっちゃんの例のお薬見ませんでした?」 すると、工場の方から菓子職人の徳さんが返事を返してくれた。 「あぁ!すいませんぼっちゃん、渡すの忘れてました。休憩室に置きっぱなしだったもんで、ないと困ると思ってお渡ししようと私が持ってました」 そう言うと徳さんが作業の手を止めて、わざわざ俺の元にトローチを届けに来てくれた。 「ありがとう」 「けど無理はしちゃぁいけませんよ?」 「もぉ、分かってるって…!」 志乃さんはお薬なんて言ってたけど、なんて事は無いただの子供用のトローチだ。 これを舐めたからって喘息が治るわけでも治まるわけでもないのだけれど、少し楽になる気がするんだ。 だから、逆を言えばこれを舐めてる時はちょっと辛い時だってもう周りの人にはバレちゃってる… 気休めが続く限りは頑張ろう。 「少しは楽になりました?」 「うん…気持ちね」 「どんなお薬より聞く魔法のお薬ですもんね」 「うん…」
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