君を守りたくて

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君を守りたくて

都内の有名大学を卒業し、念願の医者になった俺は、そこそこ名の知れた大学病院で呼吸器内科医をしている。 今日は専門知識を深めるべく、有名な先生に指導を仰いでもらうべく、地方の大学病院に来ていた。 そして昨日、俺が勤める病院の医院長の娘から泊まりでこっちに来ていると連絡があり、仕方なく合流して一緒に帰ることになっていたのだ。 俺にその気は全くないのだけれど、医院長の娘だからあまり蔑ろにも出来ず、付かず離れずの関係を続けていて、医院長からもうちに婿に来ないか?などと言われる始末。 彼女には申し訳ないが、結婚して病院を継ぐ気は無いし、そもそも彼女にさえ興味が無い。 だが、断ったら断ったできっとあの病院には居ずらくなるだろうから、彼女が俺に飽きるまでの辛抱と思って曖昧な関係を続けている。 早く一人前になってこの病院から出るか、もしくは彼女に他に好きな人でも出来てくれれば良いんだが… 帰りがけ、彼女がどうしても行きたいと言っていた和菓子屋さんに向かっている途中に、土砂降りの雨に見舞われた。 そして、びしょ濡れのままその和菓子屋に入ると、背の高いすらりとした女性のように綺麗な和服姿の男に目を奪われたのだ。 彼からタオルを受け取ると、白く透き通るようなその手に思わずドキッとして目を合わせると、彼はこちらを見たまま目を見開いていて、その瞳が美しすぎて一瞬時が止まったかのように思えた。 彼女がお菓子を選んでいる間も、俺は彼が気になって静かにそちらに視線を移すと、彼はどこか寂しそうな表情でこちらを見ていた。 そして次の瞬間、彼は喉元を押さえその場にしゃがみこんでしまったのだ。 状況と周りの反応からして喘息の発作ということは明らかで、俺はとにかく救急車が来るまでの応急処置をしようと、彼が持っていた手持ちの吸入で試みてみたが、上手く吸うことが出来ないのかあまり状況が宜しくない。 このままだと呼吸困難で心停止なんてことも… 「吸入以外のステロイドの薬とかありませんか?」 「あ、あったと思います!」 「救急車は?あと何分?」 「あと5分くらいで到着だって」 そして、お店の女性がステロイドの薬を取りに行ってる間に、彼の呼吸音が途絶えた。 これは非常にまずい… 俺は彼を静かに床に寝かせ着物の胸元を開き、救命処置の準備を始めたのだが… 「…っ、嘘…だろ…」 「どうしたの!?」 「いや…なんでもない…っ、AEDあったら用意して!」 この胸の傷、間違いない… 俺がこれを見間違えるわけが無いから。 俺は、救急車が到着するまで必死に蘇生を試みた。 そして予定より早く救急車が到着すると、渋る彼女を先に帰るように説得し、俺は彼と一緒に救急車に乗り込んだ。 「美生…っ!美生…っ!戻ってこい、美生っ!」 「あの、代わります…っ」 「僕は医者です!このまま病院まで僕が彼を…っ」 「分かりました…っ、お願いします」 だって俺はさ、美生。 お前を守りたくて医者になったんだよ? いつかお前を探して迎えに行くってそう思ってたのに… こんな再会の仕方ってあるかよっ!
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