(一)

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 それが担任の言葉で、自分の人生は自分で決めるということに初めて気づかされたのだ。  しかし、担任の言葉に、母親の小森江素子は強く反対した。「この子は私が育てているんですから」「進路は私が決めます」「この子はまだ子どもなんですよ」「親の言うことは聞くべきでしょう」などと、早口かつ大きな声でまくし立てた。挙げ句の果てには「先生は独身ですか」と尋ね、教師が独身であることを告白すると「そういうことは親になってから言うべきでしょう」「親にもなったことない人にそんなこと言われる筋合いはないですよ」「文句があるならあなたも子どもを産んでから言って下さい」とデスクをバンバン叩きながら言い散らし、「さあ帰るわよ」と直美の腕をとって教室から出た。  直美はそのときから、心の中になんとなくもやもやするものが引っかかっているような気がしてならなかった。それがなんなのかはよくわからなかったし、それをなんと言っていいのかもわからなかった。なんとなく、もやもやするのであった。 (続く)
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