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プロローグ
(こんなことやって、笑顔振りまいて愛想よくして、それで仕事が増えるならいいけど、ずっとエキストラでしかやれないなら、全く意味ねぇじゃん)
昔から演技をすることが好きだった。違う自分になるのが好きだった。だから、部活動も演劇部にずっと入ってた俺は、将来その道に進みたくて、ずっとオーディションを受け続けてた。でも、受かったオーディションは1つだけ。主役の友達役で、評判も良くて、事務所に入れることにもなったのに、それ以来、回ってくるのはエキストラの仕事ばかり。どんなにオーディションを受けても受かることがなくて、親にももう夢を追うのは諦めてほしいといわれる始末だ。
『あなたもきっと輝ける、ワントーンメイクの必需品』
と、街中にひときわ大きな存在感をはなつ大型ディスプレイの中で、今大人気の女優がリップを片手にウインクする映像が流れる。その映像に男女問わず、魅了され、立ち止まる。
いいよな、大女優様は色んなところからCMも来てるんだろうよ。それに、ドラマも映画もひっぱりだこ。俺なんて…、そう思いながら、画面に流れる彼女を見て悪態をつく。彼女は悪くないけれど、こんな風に考えてしまう自分が心底嫌になる。
そんなときだった。マナーモードにしてたスマホのバイブレーションがポケットで鳴り響く。だるそうにスマホをポケットから取り出し、届いたメッセージアプリを起動すると、マネージャーからのもので、《大女優のあの如月茜が出演するドラマのエキストラに、涼くんが選ばれました。おめでとうございます!!やりましたね!》との内容だった。
「エキストラなんか、おめでとうでもなんでもないだろ…」
などとぼやきながら、俺は適当にスタンプを送り、もう一度大型ディスプレイを見上げる。さっきまで化粧品のCMに出てた女優が、今度は別のCMでディスプレイに映っている姿を眺める。
そう、彼女こそが大女優ー如月茜ーだった。
正直、そんな人が出てるエキストラって、こんな新人が選ばれるもんなのか?一応、昔役をとったっていっても、なんならもう3年も前だぞ?よくわからん、などと思いながら、俺は自宅までの道を歩く。
きっと、あいつが生きてたら、この報告したらすごく喜んでくれたんだろうな。あーあ。この報告しても喜んでくれるやつなんて、もう誰もいねぇよ。
なぁ、俺は楽しいだけじゃなくて、誰に見てもらいたくて演技をしてたんだっけ?俺は、いつものように、答えのない問いを自分に投げかける。瑠衣、お前ならこの質問に答えてくれた?なんて、もうこの世界にいねぇやつのこと考えたって仕方ねぇよな。
ははっ、バッカみてー。と笑いながら、俺は昔を振り返る。
俺のファン1号だった彼女はもういない。いないのに、俺は今も彼女のことがどうしても忘れられない。演技をする度に思い出す。俺の演技が好きだと言った初恋の彼女のことを。
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