第四話

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第四話

「さっき・・・」 「うぇっ!あぁ・・・ごめん、びっくりしただけ、続けて」 いきなり話し始めるからびっくりしてしまった。 「さっきは助けてくれてありがとう。先に礼を言うべきだった。気が動転していた。申し訳ない。怪我はしていないか?」 「あぁ・・・大丈夫。こう見えて喧嘩は強いからね〜あんな雑魚トイレ裏に伸してきたよ〜」 「凄いな・・・」 するとまた気まずい沈黙が流れる。思わず僕から話題を振ってしまった。 「さっきミーって言ってたけど、誰?」 「あぁ、この猫の名前だ」 「ん?この猫さんの名前?でも僕見てミーかって聞かなかった?」 「そっくりだったんだ。毛色と目と雰囲気が君に・・・あまりにも似てて、ミーが人間になって戻ってきてくれたんだって・・・」 「あぁ・・・なるほどね」 「よかったら友達にならないか?俺は氏家竜治(うじいえ りゅうじ)だ、君の名前は?」 うぅ・・・どうしようか、本名は辞めておこうか。 「んー、あーちゃんって呼んでいいよ、ミーでもいいし」 「じゃぁ、あーちゃんって呼ばせてもらう」 「ん、お兄さん幾つ?」 「17だ」 「えぇ・・・えぇぇぇ・・・もしかして同じ学年?高2??」 「あぁ・・・高2だが、まさか同じ学年か」 「もっと年上かと思ってたー、じゃぁ、りゅうちゃんって呼ばせてもらうわ」 「あぁ、構わない」 「それより、傷の手当てできたよ、湿布も貼って冷えるからこれ着て」 僕は服を手渡して背を向けた。ゴソゴソとした音の後終わったと声をかけられた。 「ん、まぁ、着れなくもないって感じだね。とりあえずの服だから、いいよ、返さなくて。家に帰れる?タクシー呼ぼうか?」 「いや、歩いていける。大丈夫だ」 「そう?じゃぁ、気をつけて帰ってね。猫のみーちゃんも弔ってあげてね」 「あぁ、もちろんだ」 「じゃぁ、さようなら」 ふと手首を優しく掴まれた。そこから伝わる体温にドキドキしてしまう。 「また、会いにきてもいいか?」 「ん?あーお客さんとしてなら大歓迎だよ?♡」 「いや、友人としてだ。お礼もちゃんとしたい」 「あーそか、じゃぁ、これ、営業用の連絡先、これに送ってね、りゅうちゃんよりってタイトルに書いてくれればすぐわかるから」 そういって、僕は外階段の出口まで見送った。 次の日、僕は変わらずメイクをして、カツラをかぶってメガネをかけて登校した。 昨日は色々あったなぁ、りゅうちゃんどうしたかな・・・怪我悪化してないといいけど。 ぼーっとしながら教室に入って自分の席に座ろうとするとふと後ろの席の黒髪の生徒と目があった。 「げっ」 うん、僕が今考えていたりゅうちゃんってもしかしなくても後ろの席のやつじゃん?びっくり。おんなじ学校のおんなじクラスとか、こんな偶然あるんだ。 いや、でもバレてないはず、この完璧な変装は見破れまい。 僕は会釈して席に座った。 ふとうなじの方にくすぐったさを覚えて振り向くとりゅうちゃんが匂いを嗅いでたらしい。僕は両手でうなじを抑えて抗議した。 「なっ!何してるんですか!」 スンスン。僕の言葉を気にせず服の匂いを嗅いでいる。 「ん。やっぱりそうだよな。あーちゃんおはよう。」 「えっ?」 何が起きた?え?匂いでバレたってこと?こいつの嗅覚犬か?!!!!! 「いや、誰ですかあーちゃんって」 「あーちゃんはあーちゃんだろ。昨日助けてくれたあーちゃんだ」 「人違いです。僕は高宮葵です」 「ミーだけど、俺の家の庭の隅に埋めて、小さなお墓作ったんだ」 「・・・」 「よかったら今度来ないか」 人の話聞いてるかこいつ。猫さんのお墓の話を今するなんてこいつ卑怯だぞ。そんな今行かないって言ったら僕すごく嫌なやつじゃん。いや・・・別人ですで通すか??りゅうちゃんの黒い瞳が伊達メガネ越しに合う。 「あーちゃんなんて初めて聞きました」 僕は他人のフリをすることを選んだ。 「・・・そうか。気が向いたら言ってくれ」 こいつ無視しやがった。 はぁ・・・学校生活平穏に何事も目立たず隅っこでじっとして友達は作らず卒業しようと思ってたのに・・・2日目にして崩れそうだ。やばっ!だってよりによって変装前の姿と喧嘩も見られてるわけじゃん?あーどうしよう。あー詰んだ。 〜竜治サイド〜 「なぁ、竜治、転校生と知り合い?」 さっき俺が話しかけたのを見てたのだろう、俺の幼馴染の宮藤雅(くどう みやび)が話しかけてきた。 雅は幼稚園の時からの親友だ。性格のねじ曲がった俺の良き理解者で、いつも2人でつるんでた。学校ではいつも雅以外にはろくに話をしない俺が自分から誰かに声をかけているなんて、雅がびっくりするのも無理はない。 俺はどうもおかしいみたいだ。雅には執着心が強すぎると言われる。俺はそんなに自覚はないのだが、一旦好きになってしまえば、物でも人でも異常なほどの執着心を見せるらしい。俺は俺なりに最大限愛しているつもりだが、どうも雅曰く常識からかけ外れていると言われている。だから人付き合いは必ず慎重行いなさいと口酸っぱく言われ、耳にタコが出来るほどいい聞かされた。 元々あまり人に対しては執着したことがなかった。興味が湧く対象がいなく、唯一話しかけてくる雅とは仲が良いぐらいだ。だから俺から転校生に話しかけているのが不思議なのだろう。 これは答えるべきか? いや、雅にはまだ説明したくないな。 「・・・・・・」 「おいおい、ダンマリかよ。お前が黙ると碌なことねぇんだよ、こえぇーよ。まじお前俺が言ったこと覚えてるよな?対人関係は気をつけろって。転校生にやばいことすんなよ、俺見張ってるからな」 「お前には関係ないだろ」 「うわ・・・まじか、お前本気か?」 「・・・・・・」 「心のストッパーだけは忘れんなよ、人はものじゃない、全部お前の思い通りには行かねーかんな」 「あぁ」 「あーこえぇ、洒落になんねぇぞ」 雅はブツブツ言いながら席に戻っていった。何だあいつ、随分な言われようだよな。 あぁ、それにしてもいい匂いだ。何でウィッグとカラコンに眼鏡?変装してるつもりなのか? 今日教室に入ってきて俺の前に座った時にふわっと香ってきた匂いが昨日嗅いだことのある匂いで、背丈、骨格、肌の色、何をとっても昨日のあーちゃんだっていうのがわかった。 俺は嬉しかった。これから如何やって知っていこうと思っていた矢先に、まさかあーちゃんが俺の席の前に座っている転校生だったなんて、これは運命以外の何でもないな。 あーちゃんは自分はあーちゃんじゃないって否定してるけど、俺にはわかる。 さて、これからどう動こうか。
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