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リヴィの願いは間もなく天に届き、廊下の向こう側から2人組の男性が歩いてきた。アシェルとテオだ。まず声をあげたのはアシェルだった。
「ああ、リヴィ。こんなところにいたのか。客間にも書庫にも姿が見えなかったから、どこに行ったのかと思っていた」
リヴィは微笑んで答えた。
「厨房でクッキーを作っていたんです。ドリスとマリエラ様と一緒に」
アシェルは意外そうな顔をした。
「ほう……マリエラも一緒に? この短い間にずいぶん仲良くなったんだな」
「はい、それでこれ――」
リヴィはアシェルの胸の前に、クッキーの包み紙を差し出した。
「もしよろしければ、どうぞ。初めて作った物ですから形は少しいびつですけれど……」
包み紙を持つ手が震えた。リヴィがアシェルに贈り物を渡すのは初めてのことではないし、アシェルが受け取りを拒否するとも思えない。それでも好きな人に何かを渡すということは、こんなにも緊張するものなのだ。
小刻みに震えるリヴィの手から、アシェルは包み紙を受け取った。
「ありがとう。今夜、夕食の後でいただくことにする」
優しく微笑むアシェルの顔を見て、リヴィはほっと胸を撫でおろした。
それまで傍観に徹していたテオが、そのとき初めて口を開いた。
「ねぇねぇリヴィ、俺の分はないの?」
テオが指さす先は、リヴィが抱き込んだもう1つの菓子袋だ。リヴィは菓子袋に視線を落とし、それから申し訳なさそうに肩を竦めた。
「すみません、これはヴィクトールにあげる分なんです。いつもお世話になっているから……」
「ええー……そうなの。じゃあマリエラは?」
次にテオが視線を送った先はマリエラ。うさぎ柄のエプロンをつけたままのマリエラは、細い腕に3つの菓子袋を抱き込んでいる。
いつも消え入るような声で話すことの多いマリエラが、そのときばかりは強い口調で言った。
「これはお父様の分と、お母様の分と、わたしの分」
「ちょっと待ってよ。何で親父の分はあって俺の分はないの? 親父とお袋には2人で1袋あれば十分でしょ、俺にちょーだい」
「絶対だめ」
マリエラは眉を吊り上げ、3つの菓子袋を抱きしめた。宿敵さながらの威嚇を受けて、テオは不満げだ。
(ドリス……)
リヴィは期待を込めた眼差しでドリスを見た。
ここまでの流れはリヴィが事前に思い描いていたとおりだ。リヴィたちがクッキーを作っていたと知れば、テオはそのクッキーを欲しがるだろう。アシェルとクラウスがクッキーを貰えるのだとわかれば尚更だ。
しかしリヴィとマリエラはテオの分のクッキーを持っていない。そうとなれば、残されたドリスがテオにクッキーを渡すチャンスが訪れる。
そう、今まさに最大のチャンスが訪れているということだ。
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