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「このたびの夜会の目的は、婚約者のお披露目だ。オスカー第3王子の婚約者が正式に決まったことで、王家の息子たちは晴れて全員が婚約者持ちとなった。王国内の貴族を一堂に集めて、手っ取り早く婚約者たちをお披露目しちまおうってこと。そして俺はその夜会の最中に――1人の令嬢を殺す予定だ。そういう依頼を受けている」
アシェルははっと目を見開いた。先ほどジーンが、意味深にエミーリエの名を呟いたことが思い出された。
テーブルの上に前のめりとなって尋ねた。
「……まさかターゲットはエミーリエか?」
「さぁ、どうだろうな。俺だってプロだ、事前に殺しの情報を漏らすような真似はしねぇよ。ただ言えることは、今回の依頼は10年前の事件とつながっている。間違いなく」
至近距離から見据えるジーンの瞳は、蛇に似た狡猾さを映し出していた。夜会をめちゃめちゃにすることが楽しみで仕方ない、アシェルの神経を逆なですことが面白くて仕方ない。
アシェルはジーンの蛇の瞳を覗きながら、低い声で言った。
「依頼者の名前を言え、ジーン」
ジーンはふん、と鼻を鳴らした。
「言うわけねぇだろ馬鹿。こちとら前金だって頂いてんだ。仕事の邪魔されちゃ堪んねぇや」
それから吐息がかかるほどの至近距離でささやいた。
「夜会に来いよ、アシェル。きっとお前にとって忘れられない夜になるぜ」
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