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呆れを滲ませたフローレンスの指摘に、リヴィは心臓が縮み上がる思いだ。
「う、薄かったでしょうか……? 私としては、いつもよりかなり濃くしてもらったつもりなのですが……」
「夜会と茶会は違うのよ。会場に満足な明るさがあるとは限らないのだし、多くの人は数メートルも離れた場所からあなたの顔を見る。色味を抑えた薄化粧なんて、化粧をしていないのと変わらないわよ」
鈴の音のようなフローレンスの声を聞きながら、リヴィは鏡の中の自分の顔を見た。夜会に向けてドリスにほどこしてもらった化粧は、極力色味を抑えたナチュラルメイク。濃くしてもらったと言ってみても、口紅の色をいつもより派手にした程度のものだ。
テーブルの上のメイク道具に触れながら、フローレンスは続けた。
「せっかくたくさんのメイク道具があるのだから、色をふんだんに使いなさい。口紅はもっと濃くしていいし、アイシャドウは派手な色を使うのよ。あなたは元々の顔立ちが派手ではないんだから、化粧の力は借りられるだけ借りなさい」
リヴィとドリスは顔を見合わせた。相変わらず棘のある言い方ではあるが、フローレンスの指摘は的を射ていた。
ドリスはフローレンスに向けて軽く頭を下げた後、化粧筆を持ち上げて言った。
「リヴィ様。フローレンス様に助言をいただいたとおり、お化粧に色味を足してもよろしいですか?」
リヴィが「良い」と答えるよりも早く、フローレンスがドリスの手から化粧筆を抜き取った。そして驚いた表情のドリスに向けて、しっしと追い払うような仕草をした。
「化粧は私がするわ。ドリス、あなたは自分の準備を済ませてしまいなさい。私の名前を使って夜会に参加するのだから、中途半端なことはするんじゃないわよ」
ドリスは何かを言いかけたが、少しの沈黙のあと素直に返事をした。
「……はい。ではリヴィ様のお化粧はお任せいたします」
今夜、王国の宮殿で開催される夜会。夜会には王国各地から貴族たちが集結し、十数年に一度あるかないかの大規模な夜会になるだろうとの予測がされている。
夜会の開催にあたり、貴族の家であるバルナベット家にも当然招待状は送られてきた。しかし社交に興味のないクラウスとフローレンスは参加を辞退し、代わりにテオとドリスが夜会に参加することとなった。
そこにバルナベット家の次期当主であるアシェルが加わり、リヴィを含めた夜会の参加者は4人だ。
テオとドリスが夜会に参加することとなった経緯をリヴィは知らなかった。アシェルいわく「夜会の最中に調べたいことがあり、そのためには2人の協力が必要不可欠だ」という。
リヴィは言葉を変えて何度か尋ねてみたが、結局アシェルの言う『調べたいこと』の内容は教えてもらえなかった。
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