595人が本棚に入れています
本棚に追加
35話 夜会の準備~彼らの場合
リヴィがフローレンスから赤いアイシャドウを塗られている頃、屋敷のベランダにはアシェルとテオの姿があった。滅多に立ち入る者のいないそのベランダからは、屋敷の園庭を一望することできる。
早々に夜会の身支度を終えた2人は、ベランダの柵に肘をのせ、人気のない園庭をぼんやりと眺めていたところだ。
「テオ、面倒事に巻き込んですまなかったな」
突然のアシェルの謝罪に、テオは何でもないという風に返した。
「俺は気にしてないよ。事情を聞けばちょっと放っておけない感じだし、リヴィのためならできることは協力するさ」
「そう言ってくれると助かる」
「まぁ……ドリスはちょっと気の毒だけどね。フローレンス・バルナベットの名前で夜会に参加すると知ったとき、完全に言葉を失ってたもん。できる限りフォローはするつもりではいるけど、ドリスとしては荷が重いだろうなぁ」
テオの言葉に、アシェルは苦笑いを零した。
「そうだな……ドリスには悪いことをしたと思っている。しかしいざ何かが起こったとき、ドリスの力なしには乗り切れそうもない。いかんせん、会場が広すぎるからな」
「まぁね、今回ドリスの力が必要なのは確かだ」
今日の夜会で、ジーン・ロペスは誰かを殺す。そしてその殺しの依頼者は、10年前の事件と深く関わる人物である可能性が高い――
アシェルがジーンからその話を聞いた数日後、バルナベット家には2通の招待状が届いた。1通はクラウス・バルナベットに宛てた物、もう1通はリヴィ・キャンベルに宛てた物。
おかたく形式ばったクラウス宛ての招待状とは対照的に、リヴィに宛てられた招待状には感情に溢れた手紙が添えられていた。手紙の書き手はエミーリエ・レスター、手紙の最後はこう締めくくられていた。
――リヴィと一緒に夜会を楽しめるなど最初で最後のことだから、ぜひ都合をつけて参加してほしいの。親友からの最後の頼みだと思って、どうか私の願いを叶えて――
最初のコメントを投稿しよう!