35話 夜会の準備~彼らの場合

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 その手紙を読んで、リヴィはすぐに夜会への参加を決めた。参加の是非を決めかねていたアシェルも、リヴィの参加を受けて夜会への参加を決断した。殺人事件が起こるとわかっている夜会に、リヴィ1人を送り込むわけにはいかないからだ。  そして夜会への参加にあたり、アシェルはテオとドリスに同行を願い出た。使用人の立場では会場での行動に制限がかかるから、ドリスにはフローレンスの名前を使って出席してほしいと頼んだのもこのときだ。  必然的にテオがクラウスを演じることとなり、テオ演じるクラウス、ドリス演じるフローレンス、2人の息子であり次期当主であるアシェル、その婚約者であるリヴィ、と対外的には不自然のないパーティができあがったのだ。  ぴゅう、と乾いた音を立てて風が吹き抜けた。アシェルとテオは同時に身を竦めた。山頂に位置するバルナベット家の敷地は、日中であってもあまり気温が上がらない。暖かいと感じるような日でも、風が吹けばふいに上着が欲しくなってしまう。  上着の胸元をかき合わせながらテオは尋ねた。 「結局、リヴィには何も言っていないの?」  アシェルは1拍を置いてうなずいた。 「ああ、言っていない」  夜会への同行を頼むにあたり、アシェルはテオとドリスに全ての情報を伝えた。ジーンが夜会での殺人予告をしたことも、依頼者が10年前の事件とつながっている可能性が高いことも、殺しのターゲットがエミーリエである可能性が高いこともだ。  2人は全てを知った上で夜会への参加を承知してくれた。  しかしそれとは反対に――リヴィには何も伝えていなかった。リヴィは今日の夜会で何が起こるかを知らない。煌びやかな人々の中に、どす黒い悪意が紛れていることを知らない。    テオが言いにくそうに口を開いた。   「今更かもしれないけどさ……きちんと全てを話しておいた方がいいんじゃないの? リヴィにとってエミーリエはたった1人の友達なんでしょ? リヴィを危険に巻き込まないためにも、今からでも全てを話すべきだと俺は思うけど」  アシェルは強い口調で返した。 「リヴィには何も教えないし、何も見せるつもりはない。エミーリエへの挨拶が済んだら、お前たちはリヴィを連れてすぐに会場を出てくれて構わない。あとは私1人で何とかする」 「何とかするって……何をするつもりなのさ。まさかジーンに殺人を止めさせるつもり?」 「そんな事できるはずがないだろう。気に食わない奴ではあるがジーンは同業者だ。正当な理由もなく仕事を邪魔することはできない」  迷いのないアシェルの言葉に、テオはもどかしそうに肩を揺らした。 「リヴィの笑顔を守るために、エミーリエを助けるとは言わないんだ」 「言わない。私の目的はリヴィの汚名を晴らすこと。殺人の依頼者が誰であるかを突き止め、10年前の事件とのつながりを見つけられれば十分だ。たとえリヴィの友人であったとしても、他人の命を気にかけている余裕などない」 「……冷てぇの」
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