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1話 呪われた令嬢
***
「リヴィ、お前に客だ。来い」
扉の外側から父ルドリッチの声を聞いたとき、リヴィは破れた衣服の袖をつくろっているところであった。裁縫の手を止めぼんやりと考える。
(私にお客様……いったい誰かしら……)
10年前にリヴィが隔離された当初こそ、たくさんの友人がリヴィの元を訪れた。とつじょとして自由を奪われたリヴィを憐れみ、温かな手紙や菓子を差し入れてくれる者もいた。
しかし『厄憑きリヴィ』の名が広まってからというもの、リヴィの元を訪れる者はぱったりと途絶えた。リヴィのもたらす不吉を恐れるがゆえだ。誰しも我が身が一番かわいいものだから。
この10年の間でリヴィの容姿は別人のようになってしまった。腰まで伸びたルビーレッドの髪に艶はなく、手足は枯れ木のように痩せ細っている。家族からの愛情が途絶え、満足な食事すら与えられなかった少女は、いまや死人とも見まがう風貌だ。
かちゃり、と扉の外側から鍵を開ける音がした。
リヴィは裁縫を一区切りにし、大きな布切れで長い髪をおおい隠した。続いて細長く切った布で、同じように目元をおおい隠す。やむをえず屋根裏部屋を出なければならないときには、不吉の源である目髪を隠すようにと言われているためだ。
手探りで扉を押し開けると、少し離れたところからルドリッチの冷たい声が聞こえた。
「せいぜい粗相をしないようにすることだ。うまくことが運べば、お前は屋根裏部屋から出られるかもしれないのだから」
父に続き手探りで階段を下りながら、リヴィはやはりぼんやりと考えた。
(私を屋根裏部屋から出してくださるようなお方……? 心当たりなどまるでないけれど……)
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