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◆ ◆ ◆
「本当によろしいのですか?」
キッチンにて私は隣に立つリーデンハルク様に尋ねた。
というのも、舞踏会から帰ってきてすぐにリーデンハルク様は私の料理を食べたいと言ってくださったのだけれど、ルカが「舞踏会でお疲れのレディにお夜食を作らせるなど……!」とリーデンハルク様のことを厳しく叱ったため、このような結論が出た。
つまり、「私も一緒に作る。それなら文句はないだろう?」ということだ。
「力は尽くす」
やる気は十分なようで、白いエプロンをして、腕まくりもなさっている。となれば、どこからお願いするべきか、と悩んでしまう。そして、少し難しいことに挑戦してもらおうと考えてしまった。意地悪だろうか? でも、リーデンハルク様は器用なのだから、恐らく、そつなく熟してしまうだろう。
「ありがとうございます。今夜作るのは白身魚のオーロラソースかけです。お魚はタラで。リーデンハルク様にはソースのほうをお願いしたいと思います」
陶器のボウルに卵黄を入れ、泡立て器と共にリーデンルク様に手渡す。
「先に言っておきますと、こちら、失敗すると分離して別のよく分からないものになります」
言ってしまってから、あ……、と思う。私は少しリーデンハルク様の反応を試したかったのかもしれない。実際、ボウルを手に持つリーデンハルク様は眉間に皺を寄せて難しい顔をなさっている。
「大丈夫だろうか、私で」
「はい、卵黄を泡立て器で溶きほぐしてください」
「君は、なんだか楽しそうだな」
私の頬はだらしなくほころんでしまっていただろうか? リーデンハルク様に横から顔を覗き込まれて、「お、お料理が好きなので」とたどたどしく答えてしまう。
――リーデンハルク様と一緒にキッチンに立てる日が来るなんて思っていなくて、それが……嬉しい……だなんて、……そ、そんなこと……言えない。
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