第11話 海老とホタテとじゃがいもグラタンと……

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「裏にはヴィンセントの名があるな。上書きされた形跡はない」  殿下はまず絵画を裏返し、名前を確認された。  それから絵画を表に向け「この絵の具の状態から新しく描かれたものではないな」と口にし、卓上に置かれた紙に目を通してから、お兄様を見て「灰色の瞳、これは出生証明書に書かれた通りだな」とおっしゃった。 「そして、二人はたしかに似ている」  お兄様とリーデンハルク様を交互に何度か見て、殿下がゆっくりと頷く。 「良いだろう、この者をヴィンセント・リーデンハルク侯爵だと認める」  殿下のその決断に周囲が少々ざわついた。そのざわつきを打ち消すように「だが、まだこの者の審議は終わらない。この者にはもう一つ、誘拐の罪がある。この者の無実を証明出来る者はいるか?」と殿下は続けられた。 「それについては私が」  お兄様がサーガリアン様の手から絵画を持って下がられたところで、今度はディーガンさんが前に出る。 「ディーガン、長きに渡る調査、ご苦労だった。だが、何故、お前はそこに立っている? ここに出てきたということは、もうお前は私の密偵には戻れないということだぞ?」  少々冷たい口調で殿下がディーガンさんのことを見た。  ――密偵? 薬師ではなく、ディーガンさんは王城に仕える方で、この件をずっと秘密裏に調査されていたということ? 「承知しております。接触するつもりはなかったのですが、熊に襲われ、私はこの方に命を救われました。数週間、屋敷内で見張っておりましたが、この方に怪しい動きは全くありませんでした。よって、この方がなんの罪も犯していないことを私が証明いたします」  緊張した雰囲気を纏い、それでもはっきりとした口調でディーガンさんは言った。ご自分の職を脅かしてでも、ディーガンさんはリーデンハルク様のために証言台に……。   「たしかに、中立の立場で調査をしてきたお前の意見ならば信用出来るな」  ふむ、と殿下は悩んだ様子を見せた。けれど
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