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「彼は何も罪は犯していない。絶対に」
真っ直ぐで、とても通る声だった。周囲のざわつきが一瞬で止まる。
「証明出来るのか?」
殿下が眉間に皺を寄せ、難しい顔をして尋ねた。その問いに答えることなく、バルディさんはまた後ろの扉を開け、外に少し出ては何かを引き摺って戻ってきた。すべての視線が彼の行動に集中する。
「彼らが本当の罪人だよ。リーデンハルク領の領民を売り払おうとしているところを僕が捕まえた」
そこに転がされたのは、縄で縛られた旅商人のギャスパーとモリーだった。倒れたままでピクリとも動かない。それとは裏腹にバルディさんの動きは止まらなかった。
「それと、彼、御者のガイアス。彼がすべての首謀者だ」
二人の横に、縄で縛られた包帯だらけのガイアスさんが転がされ、彼もまたピクリとも動かない。
「熊に襲われているところを僕が助けた。暴れて面倒だから三人とも薬で眠らせているけどね。目が覚めれば話も聞けるだろう」
扉を閉め直して、バルディさんはまた殿下のことを見た。
――バルディさんは、ずっと一人で彼らを追って……。
「バルディラン医療騎士長、あなたはこの件に関して何ら関係はないはずだが?」
まるで視線で決闘をするように、殿下がバルディさんを見つめ返す。
「まあ、そうだね。たまたま森で薬草を探してて巻き込まれただけだから」
静かな戦いは終わらない。
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