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「あー・・それはそれは・・」
昨日の事を稲村に相談すると、彼女は微妙な表情を見せた。
「御子柴君、かわいそう」
は!?
「なんでよ!?どうみても私があいつの強引気まぐれ自己中な性格の被害者でしょうよ!?」
「いやそれは・・。なんて言うか、若林が自分で気づかないとダメな気がする・・」
「どゆこと!?」
「まぁ、そのうち分かるんじゃない。なる様になるというか」
稲村がそんな感じでずっと茶を濁すばかりなので、諦めた私は一人、ぶつぶつと文句を言いながら廊下を歩いていた。もうすぐ捜査二課の執務室へと差し掛かかった時、なにやら部屋がバタついている事に気がついた。
「なんかあったんすか?」
「この間捕まえた受け子に連絡取らせてた上の幹部の身元が割れた。ホンボシまで届くかもしれん。御子柴の案件だぞ」
「えっ」
詐欺事件で捕まる犯人の多くは受け子と呼ばれる下っ端で、ほとんどのケースが幹部の逮捕まで至らない。詐欺グループを一網打尽に出来ればそれはかなりのお手柄だ。そして相手側に気づかれないようにスピードも重要となる。PCを手に移動しようとしている人が見受けられるのは、別の部屋をこの事件の捜査本部にするからだろう。その中に御子柴の姿もあった。奴は出口付近でそれを見ていた私に気がつくと、すれ違い様、こんな事を言った。
「分かってると思うがしばらく泊まりになる。良かったな、これで無理に付き合わされずにゆっくり出来てよ」
────え。
「み、御子柴・・」
奴は私を振り返る事なく廊下の先へと消えて行ったー・・。
◆◇◆
なんとなくだけど、やっと御子柴が怒っている理由が分かった気がする。
私は安いソファを買ったのが気にいらないのだと思っていたが、本人が「別にソファとかどうでもいい」と言ったとおりこれはソファ自体の問題なのではない。
奴はあの時、こう言ったのだ。
" 毎日座るし良いやつの方がよくないか?"
つまりだ。御子柴的にそのソファは毎日使うつもりのものだった。それも私と二人で。だから私を誘って二人で選びに来たんだ。それを私は────。
「もうそんなに使わなくなるし、的なこと言ったな・・」
そうだ。そこから御子柴は私の意見に反論しなくなった。つまり二人で選ぶ事を放棄した・・とも言える。
「あぁぁああーー!私のバカ!」
確かにちょっと一人になりたいとか思ってたけど!でも別に・・
「無理に付き合ってたわけじゃ・・」
久しぶりの一人きりのツマミいっぱいコンビニ晩酌。
一人で気ままにスプラトゥーン。布団の中でダラダラ漫画。
どれもずっとやりたかった事なのに、なんだかとても味気なかった。御子柴の居ない2LDKは私一人では広過ぎて・・。
「どうやって謝ったらいいんだろ・・」
今は事件で忙しいよな。こんな時にLINEとかしたらめっちゃウザい奴だ。御子柴が家帰ってくるまで大人しく待ってるしかないか。
「・・・・」
迷った挙句、私は次の日早起きして、御子柴に差し入れる用のお弁当をこしらえた。庁舎に詰めてるときってずっとコンビニばっかりで飽きるんだよね。ちょっと恥ずいから稲村に頼んで渡して貰ったんだけど。
稲村曰く、御子柴は弁当を開けて中に入っていたメモを確認すると、めちゃくちゃ嬉しそうに笑ったらしい(盛られてるかも)。
" 頑張れ御子柴!早く一緒にスプラトゥーンやろう "
そして奴はこう言ったそうだ。
「しょーがねぇなあいつ。許してやるか」
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