癒えない傷

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癒えない傷

 ────今日は私達の結婚の祝賀会です。 「カンパーイ!」  庁舎近くの居酒屋で祝いの席はスタートした。開始早々、さっそくの話題は私達の馴れ初めについてである。今まで付き合っているなんて話は一切あがっていなかった私達だ。実際に付き合っていなかったのだから当たり前なのだけど、謎すぎる私達のプライベートに照準が当てられるのは当然の事なのだろう。井口課長なんかは未だに私達を疑惑の眼差しで見ていたし。 「しかしお前達が結婚とはなぁ・・」 「お前らがイチャイチャしてるの想像つかないんだよなぁ。どっちから言ったん?」 「い、いやぁ・・どっちからっていうのは・・」  苦笑いで言葉を濁した私。そういえばこの辺りの話については口裏を合わせるような事はしていない。あまり喋るとボロが出そうだから濁して逃げようとしたのだけれど・・。 「俺から言いました。結婚しようって」  キッパリと言った御子柴を私は振り向いた。確かに偽装結婚の話を切り出したのは奴の方だから、ある意味あってるのかもしれないけど・・。それに気づいたのか奴も私の方を見た。 「若林の事はずっと気になってたんで」  え────。 「えー!そうだったのかよ!?言えよお前!」 「仲良いなぁとは思ってたけど、アレずっと好きだったんか?」 「大学の頃から見てましたから。ずっと思ってました。こいつ・・」  え・・? み、御子柴・・? 「・・こいつ絶対、結婚できないだろうなって」  ────は? 「若林は昔からの連れですから。俺が拾ってやらないとしょうがないでしょう?」  しれっとした顔で焼酎グラスを口にする御子柴。 「あー、なるほど」 「なるほどじゃねぇわぁぁぁ!今頷いた奴コロス!」 「警察官を面と向かって脅迫しちゃダメだろー」 「警視庁の管理官が暴力は御法度よー若林」 「ま、こいつの事は俺が一生面倒みますから」 「おー。言うねー」  な、何を涼しい顔で一生面倒みますから、だよ!人をコケにしやがって・・ウケてたけど許すまじ御子柴!! 「え〜なんか仲良さそうで羨ましい〜」  そう言って私の方へとよってきたのは恋バナ好きな女性警察官の皆さん。  デタ!婦警ちゃんズ! 「この間あんまりお話し聞けなかったから〜今日はゆっくりお話ししましょ〜」  ほんわかお花が咲いてる様な話しぶりにいつもなら苦手意識を募らせるのだけど、今日はみっちり対策をしてきている。落ち着け私。今こそ御子柴とのデート特訓の成果を発揮させる時! 「新居に引っ越したって聞きましたけど、どうですか〜?喧嘩とか無いですか?」 「うーん・・。奴が気分屋で謎に機嫌悪いときとかはあるけど・・。うちらの場合いつも言い合いみたいなもんだからねぇ。でも楽しいよ。一緒にご飯食べたりゲームしたり、家帰って誰かがいるって良いなって思った」 「一緒にゲームとかするんですか〜?」 「うん。引っ越してからはほぼ毎日スプラトゥーンにハマってて・・気がつくと寝る時間って感じだよね」 「非番の日はどうしてるんですか?」 「今のところは一緒に出掛けてるかな・・?なんか気を使って一緒の休みにしてくれたみたいで」 「うそー仲良しー♡私も同棲始めよっかなー!」 「羨ましい・・うちなんか最悪だよ。帰って来てご飯食べたら速攻部屋に引き篭っちゃってさぁ。あたしゃただの飯炊きかよ!って・・」  これは・・なんか馴染んでるんじゃないか?  御子柴の言う通りエピソードトークの引き出し増やしといて良かった!自然に言葉が出てくるよ!  心の中でガッツポーズをかました私は、思わず御子柴の方へ視線を向けた。あいつはあいつで当然男性連中に囲まれていたのだけれど・・何故かこっちを見ていた御子柴の視線とバッチリぶつかった。  (アレ?こっち見てる!御子柴ー!上手くいってるよ!)  手を振ろうとした私なのだけど・・御子柴は何故か慌てて目を逸らしてしまった。  ん?なんで??  ま、いっか・・  途中までは楽しく過ごせていた祝賀会。  そう、あの人が現れるまでは────。 「あっ・・葛城長官!?」  井口課長がそう声をあげるとそれに反応して一斉に皆が視線を向けた。そしてその人物を確認すると慌てて立ち上がる。  現れたのは全国の警察官のトップである葛城英佑(かつらぎえいすけ)警察庁長官───そしてその娘・瀬良美桜(せらみお)と娘婿・瀬良大晴(せらたいせい)夫妻───。  そう。  私を捨てた大好きだった人と・・その結婚相手だった。
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