結婚記念日

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 私達はデパートへと向かっていた。なんでも奴の中でのプランではこの後、結婚指輪をオーダーしに行くらしい。そういえば普通結婚する時は指輪を用意するって事すら忘れていた。 「どこのブランドにするとかもう決まってんの?」 「それをこれから見に行くんだろ。お前の好きなのにしろよ」 「えっ、私の?」 「そりゃそうだろ。女はブランドとかデザインとか色々うるせーじゃんか」 「う・・私アクセサリーとか普段着けないからよく分かんないんだよねぇ」 「なんで着けないんだ?」 「邪魔だからってのもあるけど・・なんかさ、私みたいなデカい女がオシャレしてるとか思われると、なんか恥ずかしいじゃんか・・」  私は苦笑いで頭を掻いた。被害妄想なのかもしれないけど何だか私には許されないものの様な気がして、可愛いものとかキラキラしたものは極力避けてきた。  ああいうものはきっと・・美桜さんみたいな人の為にあるもので────。 「・・似合ってるよ」 「へ?」 「スカート。久々に見たけど似合ってる」  ────へ?  一気に、身体中が熱をおびるのを感じた。 「こっ、これはアンタが、チノパン禁止令とかだすからしかたなくっ・・!」  恥ずかしくて。照れ隠しにそう噛みついて見せたのだけど。  奴はそんな私の手を引いた。いつもと同じく、同意など求めずに強引に捕らえて。違ったのはその手がすぐには離されずに、しばらく繋がれたままだった事。  な・・  何なの。いきなり何なのよ御子柴────。  調子くるうじゃない。私がネガティブなこと言ったから?さっきから何でそんなに優しくするのよ。どうしたらいいか分かんなくなる・・。  その時だった。  キャー、という悲鳴が上がったのを聞いて、自分の中のスイッチみたいなものが切り替わる。それは御子柴も同じだった。悲鳴の上がった方向を確認すると、一人の年配の女性が道路に座り込んでいるのが見えた。 「警察です。どうしました!?」 「・・だ、誰か・・!ひったくり!捕まえて!」  女性が御子柴にそう訴えた時────既に私は走っている。人混みの中を走り抜ける不審な人物を確認していたからだ。 「警察だ!止まりなさい!」  男は賑わうショッピングビルの階段を駆け上った。くの字に折り返した所で私が手すりに足をかけて上の階段へと飛び越えると、一気に距離を詰められた男は慌てて・・手にした女性ものの鞄を階段の下へと投げ落とした。 「!」  私が下を覗くと・・落下した鞄を宅配サービスの制服を着た男が回収するのが見えた。複数犯か!  鞄を回収した男は宅配サービスを装って自転車で逃亡を図るパターンらしい。自転車ならば防犯カメラにナンバープレートなど映らないし、最近都内には同じ宅配サービスの自転車が多く通行している。通常ならば逃げ仰るのであろうけど。  私は下に投げ落とされた鞄を無視して、更に逃走を続けようとした実行犯を追った。くそぅ、普段ならもう追いついているはずが、御子柴にはかされたスカートのせいで遅れてるな・・!広い踊り場に出た所で男を逃がさんと盛大にタックルをかまし、男の手首を捻る。 「は、離せ!俺は何もして無い!」 「嘘をつけ!この目で見たわバカちんが!」 「証拠が無いだろ!変な言いがかりつけると訴えるぞ!」  喚く男の髪を鷲掴みにして引き上げた私は、ドスのきいた声で男によーく言い聞かせてやった。 「証拠なら相方がちゃんと持ってくるわ。署でゆっくり指紋でも取ろうや、なぁ兄ちゃんよ?」  ────5分後、到着したパトカーにはもちろん、御子柴に捕えられた宅配サービス男が証拠の鞄と共に乗せられていた訳で。    
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