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ご飯を食べ終えてお店を出るとちょうど閉店を知らせる蛍の光が流れていた。もう22時だし。そのまま帰路へ着こうとした私だったのだが、その私の腕をやはり御子柴の手がガッチリと捕えた。
「何」
「せっかく東京タワー来たんだから登るだろ」
「え?もう終わりじゃない?」
「こっちは23時までだってよ」
「へ?あそうなの?じゃあ登ろうか」
やけに詳しいなコイツ。もしかして誰かと来た事あるのかな。
お互い道府県警察へ赴任していた間、御子柴にも彼女が居たんだろうか。御子柴にも私と同じくー・・過去に傷ついた恋愛とかあるんだろうか。
初めてコイツのプライベートに興味が沸いた。そういえば今までは他にも友人達が居て、こんな風に二人きりで過ごすのは初めてだったんだった。
ただの多数いる友人のうちの一人から、一気に同居人という一番近い存在になった御子柴。当初想像していたルームシェアって、もっとドライな感じだと思っていたのに────。
「わー。綺麗だねー」
営業終了間近で、過去イチ空いてる東京タワーの展望台。こんな遅い時間に夜景を観に来ているのは・・もちろんカップルだ。ムードってこういう事を言うのだろうか。なんとなく館内全体が大人な空気に包まれていて、居心地が悪い。
「久しぶりだなー。最後に来たの、大学のときだったかなぁ。確かみんなで来た事あったよね?ほら、榮倉が行った事ないとか言い出してさ・・」
────どきりとした。
唐突に手を、繋がれて────。
「・・御子柴っ・・」
驚いて私は、隣で夜景を見下ろす奴の方へと顔を向けた。するとそこには、夜景ではなく私の方へとむけられた奴の真剣な眼差しが、私を捉えた。
「今日・・楽しかった?」
な、何。
なんなの御子柴。
突然なんなの、それ────。
「た、楽しかった・・よ」
心臓がバクバク煩く鳴り響く中、私は奴から目を逸らすことが出来ずに・・正直にそう答えた。
「そっか。良かった」
そして奴は────こう言った。
「じゃあとりあえずエピソードトーク一個完成だな!月末には俺らの祝賀会があるからな?とりあえず答えに詰まったら今日の話で乗り切れ!間違っても筋トレの話とかすんじゃねぇぞ?」
────ああ。
そういやこれ、特訓だったんでした・・。
「わ、わかった!ありがとう・・」
何を御子柴相手にドキドキしてんだ。私のバカぁ!
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