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それが店に財布を忘れてくるという作戦だった。
一人で行うのは難しかったから友人の勇介に協力を要請した。
サキちゃんたちのシフトを調べ、サキちゃんが早番の時、交代時間の一時間くらい前に店に行く。そしてコーヒーとサンドイッチでも頼んで話をしたり、スマホや雑誌を見て時間を潰す。シフトの交代時間少し前に席を立ち、会計をする。その時に店内の様子を十分に確認しなければならない。
店長か誰か手の空いた人がいると、こちらが席を立つと同時に席の片付けが行われてしまうかもしれない。近くのお客さんがテーブルの上にある財布に気が付いて声をかけるかもしれない。
僕たちは店長が厨房にいることや周りのお客の様子を確認して席を立った。
会計をするのはもちろん勇介だ。
僕たちに気付いたサキちゃんがすぐにレジに来た。僕は勇介に向かって(サキちゃんにも聞こえるように)「用があるから家に帰る」と告げた。
店を出ると僕は急いで自分のアパートに向かった。勇介も会計を済ませて店を出ると速攻で姿をくらます手筈になっている。グスグスしていて「お客さん財布を忘れていますよ」なんて声をかけられてはいけないからだ。
僕はアパートの部屋に帰ると勇介に電話をした、
「上手くいくんじゃないの?」
電話の向こうで勇介は気軽に応えた。
まあ、勇介にとっては他人事だからね。
お店では、忘れていった財布に気が付きどうするだろうか。
多分会計を済ませたサキちゃんが僕たちのいたテーブルを片付け、雑誌の下にある僕の財布を発見するだろう。
慌てて店の外に出て、僕や勇介の姿を捜すが見つからない。
サキちゃんは店長に忘れ物のことを告げる。
店長はその財布をどうするか思案する。店で預かっておくか、警察に届けるか。
会計をしたのは勇介だから、財布は僕の物だと見当をつけるだろう。僕は店の常連だし、この近くに住んでいることくらいは知っている。財布を広げてみれば僕の学生証がすぐに目に付くはずだ。学生証には住所も記載されている。
その時、店長はサキちゃんがもうじき仕事が終わり帰る時間だと気が付く。丁度サキちゃんの帰り道の途中に財布の持ち主のアパートがある。
店長はサキちゃんを呼ぶ。
サキちゃんから僕が家に帰ったという情報を聞き、帰るついでに財布を届けてくれないかと頼む・・・・
そんなことをもう一度復習して考えている時にドアのチャイムが鳴った。
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