白い視界

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白い視界

 三学期だったから、雪の日もあった。  音が雪に吸われる中を、  びしょ濡れの革靴で歩いた。  他に歩いている子なんて、いなかった。  濡れてないベンチもなかった。  教室に入りたかった。  だけど、病気のせいで入れなかった。  みんなに迷惑がかかるとわかっていた。 「たまにはおいでよ。」  学級委員の子が、言ってくれたけど、  ……話せなかった。  自分の病名を知らなかった。  授業のある時間。  給食の時間。  ただ歩き続けていた。  ありがとう。  あの頃の私。  あなたには、死ぬという発想はなかったね。  昨日の晩ごはんの天ぷら、  ティッシュに包んで持っとけばよかった、  なんて、  そんなたくましいことばかり考えてたね。  辛かったよね、ほんと。  自分のことだから、  すごくよくわかる。  忘れてないよ。  おかげで今、  ストーブの前で夜食なんか食べてる。  ほんとに、ほんとに、  ありがとう私。  なにもしてあげられないけど、  なにもかも  あなたのおかげ。  いい歳こいた大人なのにね。  中学生に助けられたよ。  ねえ、  あなたは未来の自分を助けたんだよ。  そんなこと知らない?  でも、  ………ありがとう。  あなたが私でよかった。  幸せを、  分けてあげられなくてごめん。  でももう、  あんなふうには歩かなくていいんだよ。  大人になれたから、さ。
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