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2.この気持ちとは
いったい、自分の身に何が起こったのか。
我に返り、
とん、と彼の胸を突いて、彼から離れた。
「川瀬さん」
名前を呟き、再び沈黙した僕に向かって
彼は僅かに微笑み、傍らの椅子に座った。
「実は、岸野くんのこと店長に相談してた。
仕事はだいぶできるようになったけど、
周りとのコミュニケーションはまだまだ
だってね」
「だからって、こんなこと」
「最初は先輩として指導する、それだけの
つもりだった。でもいつの間にか、キミの
ことを好きになってたんだ」
「すみません、聞かなかったことにします」
浅く目を伏せ、踵を返すと、
振り返ることなく事務所のドアを開けた。
こんなこと、信じられない。
ドアが閉まる直前、
背中から彼の凛とした声が聞こえた。
「また明日」
絶対に出勤するもんかと思った。
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