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16時50分。
17時からのバイトが始まる時間に
間に合うように職場に着いた僕は、
店長から彼が遅れて来ることを聞いた。
「交通遅延だって。仕方ないね。
川瀬くんが来るまで俺と仕事しよう」
「はい、よろしくお願いします」
制服を着て出勤処理をすると、
割り箸やスプーンの補充をしながら
レジに立った。
正直言って、少し気が抜けた。
このまま忙しさに紛れていれば、
気持ちが落ち着くのではとさえ思ったが、
レジで接客し、コーヒー豆の補充をし、
売り場に並ぶ商品の整頓をしながら、
30分経った頃。
「いらっしゃいませ‥‥あ」
来店を知らせるチャイムとともに
現れた彼を見た瞬間、ときめいた。
「岸野くん、ごめんね。遅れちゃった」
そう言って
足早に事務所へ駆け込む彼を見送り、
息を吐いた。
ヤバい。やっぱり好きだ‥‥。
一瞬ここが職場だということを忘れ、
手にしていた商品をゆるゆると棚に戻すと、
自然と笑みが漏れた。
「葵ちゃん。どうする?どうしたい?」
佐橋の言葉が、胸の中で響いていた。
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