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「お疲れ様でした」
21時の退勤時間になり、
彼と揃って事務所で退勤処理をした。
制服を脱ぎながら、
隣でスマホを開いていた彼を見た。
「どうしたの、岸野くん」
僕に見つめられているのに気づき、
彼が微笑んだ。
「川瀬さん、ちょっとこの後。お話が」
「いいよ。とりあえず、外に出ようか」
上着を羽織り、事務所を出た。
彼と並んであてもなく通りを歩くと、
近くの公園にたどり着いた。
「ベンチ、冷えてるよ。座る?」
ベンチに先に座った彼に頷き、
隣に腰掛けた。
「話って何?昨日のこと?」
「はい。一応、確認ですけど。川瀬さんの
僕への気持ちってLoveなんですか」
「もちろん。迷惑かな」
そう言って僕を優しく見つめ微笑む彼に、
僕は首を振った。
「嬉しいです。ありがとうございます」
「そうか、良かった。こちらこそ、苦い
思い出にならなくて感謝するよ」
「川瀬さんのこと、昨夜まで相性最悪だって
思ってましたけど」
「あはは、やっぱりそうだよね」
「川瀬さんに好きだって言われて、
初めて他人に心が動きました」
「え、それって」
僕はまっすぐ彼を見つめながら、
膝の上にあった彼の右手にそっと触れた。
「僕も、川瀬さんが好きです」
「‥‥ホントに?!」
視線が彷徨い明らかに動揺している彼に
顔を寄せ、愛に満ちた言葉を囁いた。
「これから川瀬さんをもっと知りたい。
川瀬さんがどんなことを望んでいて、
喜びを感じるのか、全部知りたいです。
だから、ありのままを教えてください」
そして彼の形のいい唇に、
触れるだけのキスを仕掛けた。
「き、岸野くんっ」
街灯に照らされた彼の狼狽えた様子を
目の当たりにして、
微笑ましく思った僕は彼を抱きしめた。
「川瀬さん、大好きです!」
内気で自己主張が苦手な僕は、
どこにもいなかった。
自分で自分の大胆さを驚きながらも、
彼に近づかずにはいられなかった。
今まで相性最悪の相手だと思っていたのに、
恋に落ちた途端、最高の相手だと気づいた。
これからこの恋がどうなるかなんて、
まだ誰にもわからない。
でも今は、
溢れて止まないこの気持ちに素直になって、
浸りきりたいと思った。
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