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「ん、んんっ、んっ……痛っ!あぁっ!」
思わず声のする寝室の方を振り返る樹だったが、特に何も変化は無いようだ。
再びスマホに視線を戻したが、またもや声が聞こえてきた。
「ぁんっ!やぁ、っだめ、ぁあ!」
(……しおりんは何をしてるんだ?)
樹は喉をゴクリと鳴らし、無意識に立ち上がって寝室に向かおうとした。
だが、絶対に部屋をのぞかないと約束したではないか。
汐里が、恥ずかしいところを見られたくないと言うから指切りまでしたのだ。
しかし、こんな艶っぽい声を響かせるようなこととは一体何なのだろう。
恥ずかしいこととは何のことなのだろうか。
樹は、『鶴の恩返し』で男が鶴のいる部屋をのぞきたくなった気持ちが痛いほど分かる気がした。
のぞくべきか止めるべきか、それが問題だ。
(オレ、試されてんのかな?)
それでも汐里を悲しませたくない気持ちの方が一歩リードして、樹は寝室に向かうのを止めた。
その間にも、部屋からはまだ例の声がかすかに聞こえてくる。
健康な男子には刺激が強すぎる。
「ぁん、んっ、ん!」
十分間ほどその声が聞こえていたが、ようやくドアが開いて汐里が出てきた。
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