1-10魔法剣を売る

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1-10魔法剣を売る

「こりゃ、見事な魔法剣だなぁ」 「そうですか、いくらくらいになるでしょうか?」 「なるべく高くでお願いします」 「こいつら全部売ってくれるんなら、そうだな金貨20枚だな。ちっとやそっとじゃ壊れないように防御魔法がかかってらぁ、多分だが使う奴が魔力をこめれば魔法を生み出せるかもしれない」 「なるほど、うーん。魔法を生み出す剣ですか、ソアン。いるかい?」 「予備の剣としてですか、そうですね。……私はこの大剣だけでいいです、お父さんの形見ですし」 「それじゃあ、全部合わせて金貨20枚でいいか」 「はい、ソアンがそれでいいなら、僕はそれで構いません」 「私はもちろんリタ様に従います」  こうして僕たちは臨時収入の金貨20枚を手に入れた、普通の人間ならこの街の物価だと一人が一年、そう何もしないで暮らせるくらいの額だ。僕とソアンはその場でパシンッと手と手と打ちあわせた、思いがけない高収入になったからだ。それから今持っている僕の短剣、これも壊れないように色々と魔法のかかった魔法剣なのだ。それ以上に良い物がないか見て回ったが、特に無かったので武器屋では何も買わなかった。  それから他の店も覗いて買い物をしてまわったが、そもそも僕たちはエルフの森でできた丈夫な服や防具を身につけてるし、武器もお互いに両親からもらった大事な剣があるから今は他には必要ないのだ。  ただ初めてのダンジョンはいろいろとあり過ぎて僕は疲れたようだ、宿屋に戻ってお祝いとしてちょっと良いお肉を二人で食べて、ミーティアの音楽の指導をしてそれから水浴びして薬を飲んでベッドに倒れこんだ。その後、7日間僕は夕方からの鍛錬とミーティアの音楽の指導、それ以外何もできずにベッドで朝から夕方まではごろごろとしていた。それがいつもどおりであるかのようにソアンは変わらなかった。彼女は朝から夕方まで僕を一人で放っておいてくれた、僕に何かをしなさいとは一言も言わなかった。 「うぅ、ごめんね。何もできなくてごめん、ソアン」 「謝る必要なんてありません!! リタ様のおかげで憧れのダンジョンにも行けました!!」 「でもこんなに動けないなんて、僕はなんて駄目なんだろうか」 「何が駄目なんですか、いっぱいお金を稼げました!! ちょっとくらい休んでいいんです!!」 「そう、そうなのかなぁ」 「はい、そうなのです!! リタ様はゆっくり休んでいいのです!!」  7日間たっぷりと休むと8日目は僕は朝から起きれるようになった、いや僕の悪いところが完全に治ったわけではないが少しだけ良くなったのかもしれない。僕は確かにどこか悪いところがあるようだ、ソアンは病気と言っていいんですっと言っていた。だったら僕はその病気に効く薬が欲しいのだが、ソアンにも眠り薬で不眠をどうにかする、それくらいしか分からないと言っていた。 「セロトニンやノルアドレナリンがしっかり働くようになれば、でもそんな薬どこにもあるわけないですし、私より薬に詳しいリタ様でも作れないお薬でしょうし……」 「ソアンは僕より時々物知りだね、一体どこの本から学んだんだい?」 「えっ!? ええと、ほらっ、お父さんとお母さんから教えて貰ったような~、学校で学んだとか違うとか~、とにかく分かっているのはそれだけです!!」 「ソアンのお父さんとお母さんか、僕も君のお父さんのドワーフにも会ってみたかったな」 「はい、父はドワーフには珍しいリタ様みたいな背高さんでした!! 私もリタ様に会ってもらいたかったです!!」 「お母さんのファインさんと会った時は僕もまだ若かったけど、とっても優しくて心が強いエルフだったね」  はいっとソアンは僕に頷いて、ちょっと苦笑いになった。ソアンがまだ50歳くらいの頃の話だ、ファインさんが大剣と少ない荷物それにソアンをつれて、僕たちが住んでいたプルエールの森に突然に帰ってきた。その時にはファインさんはもう病気になっていて、まだ魔法が使えなかった僕や他のエルフにも助けられなかった。  ファインさんは大人になったらプルエールの森を飛び出していって、そしてその間に何をしていたのかは詳しくは分からないのだ。分かっているのはドワーフとの間に、ソアンという子どもを授かったということだけだった。ソアンもまだたったの50歳くらいだった、人間でいえば5歳程度の子どもだったから、ファインさんとその旦那さんのことは詳しくは知らないのだ。  それからは僕たち一家がソアンの保護者になった、残念ながら両親は僕が成人した頃に亡くなったが、僕とソアンを差別することなく家族として育ててくれた。それからは成人した僕がソアンの保護者だった、他のエルフもソアンに害を加えたりはしていない、ただハーフエルフは珍しいから接し方が分からなかったのだと思った。あの森の長い年月の中でハーフエルフはソアンだけだった、全て初めてのことだったから、他の皆も手を尽くしたが多分上手くいかなかったのだ。 「あの頃、他のエルフは私がほとんど人間にしか見えないから、ドワーフとのハーフだからと近づいてきませんでした。リタ様ご一家だけが優しくしてくれました、大きくなってからもずっとそうでした」 「ソアンは可愛いから、本当は仲良くしたいエルフもきっといたんだよ」 「そんなの信じられません、あの村では私はどこまでいってもハーフエルフでした。今ではリタ様だけです、でもこれから私にも他に大事な人ができるかもしれません」 「そうだね、ソアンもファインさんのように大事な誰かに出会うかもしれない」 「でも間違いなく今まで私に優しくしてくれたのはリタ様だけでした、だから私はリタ様と今は一緒にいたい、ただ何もしなくていいですからお傍にいたいんです」 「……ソアンは優しいね、本当に優しい良い子に育ってくれて僕は嬉しいよ」  本当にソアンの置かれた環境はあまり良くなかった、同じ世代の子どもが遊んだりしてくれなかった。他の大人のエルフから色々と学ぶ機会も少なかった、僕たち一家だけがソアンとあの森を繋いでいた。だからなのだろう、ソアンはあの森で壊れそうになっていた僕を助けてくれた、思い切って二人で家出しようと言ってくれたのだ。これからソアンが言うように彼女にも大切な人ができるかもしれない、でも今は二人でいいんじゃないだろうか、僕は思う二人で仲良く家出というものを楽しめばいいのだ。 「ソアン、僕たちは家出をした仲間だ。だから、今はそれを一緒に大切にして楽しもう」
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