4-27人は信じたいものを信じる

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4-27人は信じたいものを信じる

「大丈夫だよ、ソアン。どうせ、もうすぐジーニャスには伴侶ができる」 「はい、リタ様。そうですね、おめでたいことです」  僕とソアンはなるべく自然に本当らしく聞こえるように話した、そう僕は嘘は言ってはいないしいつかはジーニャスも伴侶を持つのだ。そう思ってできるだけ自然に聞こえるように僕は話そうとした、ソアンからも手のひらに『自然に』『本当らしく』とか書かれたりした。そういつかはジーニャスも結婚するのだ、それはマーニャでは絶対になくまだ見たこともない女性だ。 「僕もまだ会ってはいないけれど、ジーニャスの強さや努力を分かってくれる女性だと祈るよ」 「……ジーニャスさんは今回の件で、ちょっと女性不信を起こさないか心配です」 「大丈夫だろう、支えてくれる人がいれば違うものだ」 「そうですね、それは確かにそうです」 「腕輪も封印したことだし、もうこれ以上酷いことは起こらないだろう」 「だけど、リタ様。用心も必要です、もう誰にも危害が及ばないように!!」  僕とソアンの会話を聞いて護衛の人たちも頷いていた、口々にとても自然に良かったとか、めでたいことだとか言ってくれているのが助かった。彼らには実際にジーニャスの許嫁候補が来ている、そういう話を聞かせてあるのだ。だから、彼らは本当に信じていた。今の神殿にジーニャスの許嫁の候補、そうである高貴な女性がいるのだと信じてくれていた。 「過去はもう沢山だよ、そろそろ未来を見ていかないとね」 「ええ、リタ様。今度あの夢を見たら、私は相手をぶん殴ります」  そうして時間が過ぎていった夜だった、見張りの者を除いて交代で休憩をとっていたらそれは起こった、僕の持っていた腕輪がいきなり震え出したのだ。きた、マーニャだ。僕はソアンを起こして皆に知らせるようにした、ジーニャスと僕とではマーニャに狙われるならジーニャスの方のように思える、だからジーニャスの警備を多く手配した。その様子を見ているマーニャがこちらに現れるように、あえて僕の方を狙うように動いたのだ。  腕輪が震えて持っているのも大変になった時、右手の腕輪から闇が零れだした。幾つか零れ落ちた闇はフェイクドラゴンの姿をとった、想定どおり皆で庭に出て彼らから離れた。マーニャがこちらに連れてこれるフェイクドラゴンは数体だ、護衛の人たちも腕の立つ者を選んだから、既にフェイクドラゴンを攻撃していたりした。 「ソアン、彼女がきた!!」 「ええ、リタ様分かりました!!」  そんな騒ぎの中で静かに零れた闇の一つがあった、それはだんだんと人の形をとった。ソアンが反射的に動いた、静かに現れたマーニャに向かって大剣を振るった。だがその姿はただの幻ですぐに消えた、しかし確実に違うことがあった、急に腕輪が軽くなり動くのを止めたのだ。遠くの闇の中にマーニャが見えた、もう彼女はこちらの世界に来ていた、また数体のフェイクドラゴンを連れていた。 「『大いなる(ラージスケール)浄化の光(ピュアフュケーション)!!』」  今度の魔法は僕の放った合図だった、腕輪の機能を一時的に止めると同時に、ジーニャスや他の皆への光の合図だった。マーニャが動いたが僕の思ったとおりこっちには来なかった、彼女は闇に消えるように神殿のある街へと向かっていたのだ。マーニャはジーニャスがじきに伴侶を貰うと噂に聞いていた、だから僕たちのついた嘘を彼女は本当だと信じたのだ。 「うるさい、くそエルフ。……あたしの邪魔はさせないわ」  マーニャは闇に溶けるように数体のフェイクドラゴンと一緒に消えようとしていた、僕とソアンからは距離があり過ぎる遠くへいた。だが神殿に向かうと分かっていれば道は一つしかない、マーニャが遠くで足を止めるのを見た、同時に起こった攻撃を彼女は器用に避けた。そこにはかなり怒っている彼がいた、元々そこで待っていた彼はマーニャに剣で切りかかり神殿への道を塞いた。 「神殿には行かせない、二度とあそこは荒らさせない!!」 「あんたはっ!?」  それはドラゴンであるジェンドだった、神殿を標的に使うとジーニャスに筆談で伝えていた時、彼とエリーさんも参加していたのだ。神殿にはジェンドが大事にしている孤児院があった、彼は自分から志願してマーニャと戦うことを選んだ。マーニャを斬ることはできなかったが、一体のフェイクドラゴンをしとめて彼は神殿への道を塞いで立った。 「……ドラゴンが相手だとは光栄だわ、あんたも後であたしのものにしてあげる」 「はっ!! どうやってだ、人間!!」 「あたしはもうただの人間じゃない、でもフェイクドラゴンでもないわ」 「だがその入り混じった気配がするぞ、自分の種をこえようとは愚かなことだ」 「フェイクドラゴンは確かに力をくれた、あたしを強くしてくれた」 「偽物が!? 本物のドラゴンを甘くみるな!!」  ジェンドがそう言って剣を振るった、マーニャは恐ろしい速さでそれを避けた。マーニャは魔法使いだった、だったら次にとる行動は魔法戦だ。そうジェンドも分かっていた、だからマーニャが呪文を唱えた。上級魔法が使える相手は限られている、マーニャはその中に入っていなかった。だが魔法は応用力が勝負を分けることがある、それが上級魔法の使い手がしばしば倒されることがある原因だ。 「……『闇の中の夢(ドリームインザダーク)』」 「俺はその闇には捕まらない!!」  マーニャから闇が吹き出した、彼女のオリジナルの魔法だ。効果はおそらく己の過去を夢で見せる、ジェンドには絶対に闇に捕まるなと言っておいた。あの悍ましい経験は心を傷つける、だからジェンドはマーニャの攻撃を大きく避けた、それでも彼は神殿への道は譲らなかった。僕とソアンもマーニャに近づこうとしていた、そうして彼女を取り囲めると思った時だった。  マーニャが振り返って僕を見て笑った、思わずゾッとするような笑い方だった。反射的に僕はソアンを庇って後ろに下がった、大きく彼女の攻撃範囲から外に出た。それと同時に防御魔法を使った、ジェンドもそれは同じだった、ドラゴンの勘が働いたのか彼はまた大きくマーニャから距離をとった。同時にいくつもの魔法を発動した、魔法を防ぐのは魔法だけのはずだった。 「「『聖なる守り(ホーリーグラウンド)』」」  僕とジェンドが同じ魔法を使っていた、中級までの魔法ならこれで防御は十分だった。でもそんな僕たちとは違う声がした、そう気づいた時にはマーニャが魔法を放っていた。 「『抱かれよ(エンブレイス)煉獄(ヘル)の熱界雷(ライトニング)』」
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